第61回
精気神と脾

現在、精気神と五臓との関わりについて
お話していますが、
これまでに心と腎を取りあげてきました。
今回は後天の元と呼ばれる
「脾」に関わる内容についてお話しようと思います。

中医学の考え方による
脾というシステムが持っている生理機能には、
主に飲食物の運化、血の形成と流れ、
それから後天の精と気の上昇という
三つの働きがあります。

まとめてみると、
食事で摂取した飲食物を
脾の中に送って体が必要とする精気を作り、
再び体の色々な臓腑、器官、部位へと送ります。
いうなれば脾は倉稟の管理者のように働いているのです。
ですから脾は五臓の中の「倉稟の官」と呼ばれています。

第一の働きである食物の運化についてですが、
運化とは中医学用語で、
運送と消化吸収の意味があります。
つまり、脾は飲食物を体内に運送して
消化吸収の過程を経て生成した精気を
再び体全身へ運送するのです。

もっと具体的に説明すると、
脾は食べ物の運化と水液の運化を別々に行います。
それぞれの働きは独立していて、
ひとつは食べ物から精気を生産します。
もうひとつは肺や腎と配合して、
さらに胃、三焦、膀胱の三つの腑にも参与してもらって
全身の水液代謝を司ります。

第二の働きである血の形成については、
西洋医学の骨から転化する論説とは大きく異なり、
中医学では脾の中で精と気を血に転化すると考えます。
血ができてから血脈外へ溢れないように、
きちんと血脈の中を流れるように管理することも、
脾が司る働きです。

第三の働きである精気を上昇させる機能は
脾の特徴的な働きといえます。
これは生命活動の中でも
五臓協同作用の一環とするものです。
つまり脾で飲食物を精気に転化したら
体内の上方に位置する心、肺へ運送する。
そして心肺の働きによって
精気を全身に送って配布します。

脾の働きは先天の精気を補助し、
生命活動が必要とする基礎物質と動力を作って
全身へ提供します。
腎が「先天の元」と呼ばれるので、
これに対して脾は「後天の元」と呼ばれるようになりました。

養生としては、
「先天の元」の養護を重視すべきではありますが、
「後天の元」の調整が
最重要になると意識したほうがよいと思います。
なぜならば、親からもらった元精元気元神の量や質は
改善することは殆ど不可能と思われるからです。
そうなると自分自身の精気神を
強く良くなるようにしたい場合には、
後天の精気神を調整する方法しかありません。


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