第76
『太極導引』之柔 そのニ

前回では『太極導引』鍛錬の特徴である「柔」に導くことは
「松」と「静」という二点について行うとの紹介で終わりました。
そこで今回は、「松」と「静」のそれぞれについて
個別にお話を続けて行きましょう。

まず、心身状態を「松」(リラックスの状態)に導くというのは、
中国語でいうと「放松」という動詞を使う行動になるのです。
つまり受動的に待つことではなく、
主動的に創ることと引導することなのです。
「松」の状態になることは、
『太極導引』の鍛錬にとって基本的かつ大事なことです。
前にも「放松」というテーマで紹介しましたが、
ここで再び取り上げておきます。
特に呼吸と力の運用の二つの方面を補充して紹介します。

緩やかな呼吸を行うことは、「柔」になることの規範となります。
呼吸のリズムは、精神状態や動作に影響されますが、
逆に精神状態と動作にも影響を与えることができます。
『太極導引』鍛錬で行う呼吸は無理をせず
お腹も参加する深い呼吸活動であり、
一呼吸のリズムが長く、平均的で、
いわゆる穏やかな呼吸です。

それから、力の運用については
無茶な筋力を使うことは絶対に避けるべきことです。
『太極導引』鍛錬の動きはゆったり、軽やかに行うものなので
姿勢と動作の維持に必要とする力だけで充分です。
ですから、『太極導引』鍛錬の教習の第一歩としても
緊張しない、力を抜いて動作を動かしましょうと要求されています。
これを力の視点に立てば『太極導引』鍛錬の過程は
自分にとって姿勢の維持ができ
動作を動かせる最低限と思われる力を探して
試行する過程ということなります。

つぎに『太極導引』鍛錬が提唱する「静」ということは
環境的な静かさのことではなく、
情緒、精神状態、こころが
平静、冷静、落ち着きなどの状態にあるという意味です。
「静」に導くことについては
座ったまま、静かにしたままで練習するような静坐によって
こころを落ち着きの状態に導くことは
たぶん、皆さんがご存知のことと思います。
動的な『太極導引』鍛錬による
こころの落ち着きの状態に導く方法は評価せず、
望まずという意識を持ちながら鍛錬を行うことです。
この意識は姿勢動作が良くなることを
放棄しようとすることではありません。
そのような消極的な意識ではなく、
繁雑な動作の順番と要領に集中できるような意識をすることです。


←前回記事へ 2006年7月21日(金) 次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ