“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第7回
新鮮な魚は美味しくない

江戸前の鮨屋へ行くと、旬の味を実感できる。
いい鮨屋はお客に出す種である食材に一仕事しているものだ。
鮨を新鮮で旨いと評価する客が多いが、
実は新鮮なだけの魚は旨みはあまり無い。
魚も牛肉、豚肉と同じで、ある程度の熟成を経て旨みがでてくる。

不必要に生簀に数日入れて食べる直前に〆た魚は、
生簀で体力を消耗していて旨みはなくなっている。
それなら、釣ったばかりの魚がいいかというと、これも違うのだ。
〆たばかりの魚はぷりっとした触感はいいが、旨みはあまりない。
魚は〆て時間が経つと死後硬直をして
アミノ酸がだんだんと増えてきて、旨みが増してくる。
例えば、いい天然鯛などは〆てから数時間、
あるいは、三日くらいたったときが一番美味しいことがある。

ただし、この食べ方は養殖の魚には通じない。
養殖の魚は餌の臭みが脂についていて、
〆たあとに、どんどん臭みが強くなってくるからだ。
従って、養殖の魚について言えば、
新鮮なほど旨いということになる。
しかし、本当に旨い魚を食べるには天然ものを選択して、
適切な熟成を経て食べることが一番だ。

魚の〆かたも、その後の熟成に多いに関係する。
友人で鳴門で鱸と若布にこだわっている
村公一君という漁師がいる。
彼は通常の漁師がするように、
捕獲したばかりの魚を船上で〆るということはしない。
いったん水槽に入れて一晩置くのだ。
捕獲したばかりの魚はパニックになっていて、
その場で〆ると筋肉に乳酸が作用して、死後硬直が早くなる。
いちど、水槽で落ち着かせてから〆る。
それも、血を完全に抜いてから脊髄の神経をエアガンで飛ばし、
死後硬直がゆっくりと起こるようにする。
彼の獲った鱸は
徳島市場で他の漁師のものの三倍の値がついているが、
三日経った頃の味は筆舌に語れないほどの旨さだ。


←前回記事へ 2004年8月17日(火) 次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ