“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第152回
純米無濾過生原酒は一時の流行か?
その2 生酒のよさの誤解

生酒とは、二度の火入れをしていない酒のことだ。
火入れとは、酒のなかに含まれる酵素を失活させて
酒質変化を安定させ目的で、
上槽直後と瓶詰めのときに
62℃〜65℃の温度に日本酒を温める工程のことを言う。

火入れの技法は1862年にパスツールの発見した殺菌法と全く同じ。
パスツールのおかげで、
ビールがヨーロッパのなかを流通できるようになり、
牛乳も長期に貯蔵することができるようになった。
当時、ヨーロッパの科学者の間で
パスツールのこの研究業績は大いに話題になった。
温度をあげて殺菌する方法を
パスツライゼイションと呼ばれるようになる。

ところが、日本酒の火入れ殺菌法は
パスツールよりも300年は早い、
16世紀には行われていたという記録が見られる。
明治初期に東京大学の前身の東京開成学校に招かれて、
日本酒の科学的分析を始めて行ったイギリス人アトキンソンは、
パスツールの研究業績の発表の記憶がまだ新たな時期に、
日本酒の歴史を調べて、
パスツールよりも遥かに早く
火入れ殺菌法が日本酒で行われていたことを驚愕している。

さて、この火入れを行うとことは、
酒の酵素が働かなくなるので、酒質変化が少なくなる。
生酒は酵素によって生老(なまひね)が起こりやすく、
貯蔵が難しいと業界ではされている。
生酒は酒を絞ってからなるべく早く
フレッシュさを楽しむために飲むものと思っている
造り酒屋、小売酒屋が多い。

しかし、生酒の価値は実は熟成の早さにある。
火入れ殺菌を行うと酒質の変化は安定するが、
それは熟成が進まないということにもなる。
それで、火入れの酒は
半年はたたないと旨みが乗ってこないことになる。
ところが、生酒は冬の上槽後にどんどんと熟成が進んできて、
春のうちに味乗りがしてくる。
つまり、早く熟成させるという観点からは、
火入れの酒よりは、生酒のほうが優れている。
この熟成という観点は、日本酒業界の常識の外にあった。
それで、私が進めても信じない業界人が実に多い。
常温熟成させた生酒を飲んだもらって、
初めて驚きの顔をする。
「純米無濾過生酒」の生である意味は、
熟成の味乗りなのである。


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