“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第221回
津市の極上おでん屋

三重県の県庁所在地である津市は伊勢湾に面している。
伊勢湾の魚介類もなかなか美味で、
以前、名古屋の割烹で天然の鯛など、
地物を堪能したことがある。
また、牡蠣、鮑などの貝類も旨い。
その津市に来たときにはかならず寄るのが、
「おさむ」というおでん屋だ。

地酒の豊富な店はないかと、津の酒屋に聴いて紹介された。
初めての地では酒屋に聴け、という鉄則がここでも有効であった。
津の大門というところの路地裏にひっそりと佇んでいる。
なお、大門というのは、観音寺というお寺の周りの地名だ。
看板に「利き酒師のいる店」と書いてあるので、
最初はちょっと躊躇した覚えがある。

「利き酒師」というのは、そもそもは、
ソムリエ数名が仕掛けて作った資格であって、
日本酒業界が主体的に企画したものではないので、
何か違和感を覚える。
最近では、焼酎の利き酒まで手を伸ばすなど
節操のなさも見られる。

しかし、ご主人は酒の薀蓄を語りたがるタイプではなく、
人柄もよかったので、安心して通うようになった。
最近訪問したときには、
和歌山の銘酒『黒牛』の燗を飲みながら、おでんを堪能した。
おでんは、大根、がんもどき、
こんにゃく、玉子などの定番ものもあれば、
トマト、カマンベールチーズなどの変化技もある。
関西風の薄味の出汁で煮ていて、食べ飽きしない味だ。

トマトがとても美味しかった。
トマトの酸味が出汁に融合して、
それだけで美食の宇宙を形成している。
だんだんとトマトがくずれていき、
出汁とトマトが一体となっていき、
最後に出汁とトマトとまざったスープを一気に飲み干す。
焼き茄子のおでんも秀逸だった。
茄子は出汁にはよく合う食材だが、
出汁がからまってとても上品な味わいだった。

カマンベールチーズがまた、意外と旨い。
鰹節がかかってきたが、
その鰹節とチーズの生臭さがちょっとぶつかる感じはあったが、
チーズの柔らかい食感とクリーミーな味わいが
出汁のなかでまろやかに広がる。
口に入れたとたん、旨いとは思ったが、
さらに美味しくするための工夫が頭に浮かんだ。
チーズのねちょっとした食感、
チーズの口のなかに残る濃厚な味、
それを、生姜でさっぱりとした後口にできそうではないか。
と、考え付き、即店主に提案。
「それは面白そうで、さっそく試してみます」と有難がれる。

「おさむ」は気楽におでんと地酒を楽しめる
地方色豊かなおでん屋だ。
こちらも、拙書「世界一旨い日本酒」に掲載してある。


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2005年6月27日(月)

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