“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第226回
名古屋の『京加茂』で極上の懐石

名古屋に『京加茂』という懐石料理屋があり、
いい料理と酒が楽しめる。
地下鉄東山線「八田」が最寄駅で、
住宅街のまんなかに佇んでいる。
ご主人の土方さんとは、
実はこのコラムを通じて知り合いになった。
読者のメイルとして、励ましの言葉をもらったのが最初だった。
昨年の秋に一度お店を訪問して、
その料理の質の高さにびっくりしたが、
今回、初夏の時季にまた訪問する機会ができた。

訪問したら、拙書『世界一旨い日本酒』
数十冊も棚に飾られているのにびっくり。
しかも、日本酒の銘柄が本で推薦している、
秋鹿、奥播磨、るみ子の酒、神亀、悦凱陣、宗玄などに
変っていたので、嬉しくなる。

料理は相変わらず質が高い。
いい食材を用いて、それを適切な調理をしている。
派手さはないが、食べ飽きしない落ち着いた味付けが印象的だ。
最近は、インパクトを重視するばかりに、
偏った味付け、奇異な食材の組み合わせ、
ひねった調理法などを試みる和食店が増えている。
これは、客の最初の一口の印象を強くして、
店の独自性を訴えたいという気持ちの表れと思われる。
また、メディアも変った調理方法のほうが、
記事が書きやすいということもあって、
奇異な創作性をやたら持ち上げる傾向もある。

普通であって、それで、しみじみと旨い。
そういう料理を提供する料理屋が少なくなっている現在、
『京加茂』は貴重な存在だ。
実は、普通に旨い料理を出すほうが、
料理人にとっては遥かに難しい。
適切な食材の処理、下ごしらえ、絶妙の味付け、
ピンポイントの火の通し方などの、基本的な調理の技量、
それに手間隙が必要となるからだ。

以前、祇園の懐石料理店で、その独創性が
メディアにとてもよく取り上げられる店に行ったとき、
京野菜が火の通し過ぎで、
食感を損ねている経験をしたことがある。
普通の調理が怠っていると、せっかくの独創性も興ざめになる。

また、料理評論家は普通の美味しさを評価できる人間が
あまりいないのではとも感じる。
当たり前の食材で、当たり前の料理を作り、それがとても旨い。
そういう店が好きだが、『京加茂』はその代表だ。


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2005年7月4日(月)

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