“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第293回
そば屋さんに日本酒の美味しさを紹介する

知り合いの手打ちそば屋のご主人から突如電話をいただいた。
何事かと思ったら、
「そば屋仲間で勉強会を毎月開催している、
 その一つとして、私に何か講演をしてほしい」
という依頼だった。
テーマは任すという。

最近、講演を依頼されたときにネタとしては、
ホンダ時代に研究開発に携わってきた
自動車の革新技術の話が一番準備に手間がかからない。
過去に蓄積してきた資料を少し手直しするくらいで
すぐに対応できる。
しかし、最近は蕎麦や日本酒についての講演も
多くなってきている。
蕎麦の講演はさすがにはばかれるので、
日本酒の本当の美味しさについて語ることにした。

最近はそば屋で日本酒を飲む客がいくらか増えてきたようだ。
以前は、そば屋は蕎麦だけ食べる
専門料理屋のような認識をしている人が多かったが、
本来は酒を愉しむ場であり、
そこへ向って回帰していくことは、
日本の伝統食文化を絶やさないためにも大変意義深い。
そば屋さんたちにとっても、
蕎麦だけ食べてすぐに帰られるのと、
酒と酒肴をまずとって、最後に蕎麦を食べて帰るのでは、
客単価が随分違ってくる。
酒と酒肴が加われば、客の側からも、
蕎麦だけで帰るよりは満足度はあがり、
店としても利益をきちっとあげられることになる。
双方にいいということになり、これこそが健全な商売といえる。

まだ、そば屋では日本酒の提供については、
しっかりとして考え方などはないことが多い。
だいたいの店は、大手の酒一種類だけ。
地酒を扱っていても、銘柄は酒屋まかせ、
あるいは、有名地酒を揃えているだけ、
というところがほとんどだ。
相当そばにはこだわっていても、
酒には無関心なそば屋が実におおい。

さて、勉強会であれば、薀蓄を語るだけでは不十分で、
実践を同時進行させることが一番理解されやすい。
ブラインドで何種類かの日本酒を飲んで、
その味わいを評価用紙に記入してもらうことによって、
自分の舌で覚えてもらうことを主眼に計画した。
私の勧めたい無濾過生原酒の代表として3銘柄と、大手の酒、
それに、淡麗辛口で知名度だけ高い新潟の酒、
カプロン酸の吟醸香がぷんぷんする酒の全部で6銘柄を準備した。

それらを、最初はぎんぎんに冷やした状態の冷やで、
つぎに、常温で、最後に燗をして提供する。
会場は懇意のそば屋にお願いした。
その店は地酒にもなかなか詳しいので、
こちらの趣意が容易に伝わると考えたからだ。
この企画は成功だった。
二十名ちょっとのそば屋さん、陶器屋さん、鰹節屋さんが集まり、
真剣に日本酒を味わっていた。

感想としては、冷や、常温、燗で随分味わいが違う、
また、それぞれのお酒の味わいには個性があって、
これまた面白いと、私のいいたいことを理解していただいた。
通常の利き酒では、冷やだけしか提供されないことが多い。
これでは、個性の違いが理解されにくい。
今回のように、温度を変えて味わえば、
個性の違いを味わってもらえる。
そば屋さんたちは大喜びで帰っていった。


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2005年10月12日(水)

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