“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第299回
あとに続く旨さ

名古屋の懐石料理の名店である「京加茂」を久しぶりに訪問した。
ご主人の土方さんとは、
出版記念パーティに来ていただいて以来の再開。
お昼をいただいたが、あいかわらず食材を厳選して、
しっかりとした正統の調理をしている。
この日のお品書きは以下。

・前菜  菊菜おひたし、いくら醤油漬け、鰆(さわら)昆布しめ
・椀   蓮餅と鱧(はも)の葛タタキ
・お造り 鯛の自家製カラスミ巻き
・焼物  マメ鯛の幽庵焼き、ペコロス、玉子焼き
・炊き物 小芋の揚げだし、湯葉巻き、小海老
・食事  牡蠣の炊きこみご飯、赤だし

午後1時を過ぎていたので、カウンターには私一人だけ。
次々に提供される料理をゆっくりと堪能できた。

前菜は酢の使い方が絶妙。
旨みを最大限引き出し、食欲を湧かせるように配慮がされている。
椀は鱧の旨みが葛で倍加していて、
それが汁をすすると奥から湧き出してくる。
決して華やかではないが、しみじみとした味わいと香りに、
心を落ち着かせる。
お造りは、熟成させた鯛と自家製のカラスミの組み合わせ。
このカラスミは昨年から私と意見交換をして、
それを参考にした試作品という。
昨年のものより、雑味が少なく、旨みがじわっとでてきて、
とても旨い。
天候がよかったために、5日くらいで干せたという。

焼物も幽庵地が旨すぎずに、
素材にいい感じに絡んで、旨みを引き出している。
この塩梅がなかなか難しい。
だいぶお腹も張ってきたと思っている頃に、炊き物。
これが、身体に優しく、胃の張りを緩めてくれる。
最後の食事が楽しみになる。
牡蠣の炊きこみご飯がまた秀逸で、お代わりまでしてしまった。
お焦げがまた香ばしくて美味しい。

京加茂は、派手な料理は出さない。
しかし、一品一品と食べていくうちに、
次の料理が楽しみになってくる。
後を引く旨さがあるのだ。
この後を引く旨さを出すためには、
際立った派手な味わいは邪魔をすることが多い。
奥深い味わいを隠し持ち、
ある料理は中つなぎの黒子に徹したりして、
総体で旨みを演出させる。

料理を演奏会に例えると、
聴かせどころ、抑えて次を期待させるところ
というような変化をつけて、
聞き終わってからの満足感が
最高になるように配慮されていることになる。
これは、料理人は演奏家としての力量だけではなく、
アレンジャーとしての腕が必要になる。
才能があるだけでは駄目で、
先輩料理人のもとで修行し、鍛えられてこそ培われる。

このように、序曲からフィナーレへと続くアレンジ、
あとを引く心地よさ、終わってからの余韻の長さ。
これぞ日本の伝統食文化の誇れるところ。
しかし、最近のグルメ評論などを読むと、
このような派手さはないが、
後に引く伝統の味を正しく評価していないことが大変多い。
派手な料理ばかりが取り上げられることが多い。
京加茂で美味しいコースを満足したあとで、
ご主人の土方さんと長々と日本の食文化の後退、
さらには、そのうち滅亡するかもしれないなどと話こんでしまった。

派手な味に慣れた今日のお客様には、
日本の伝統食文化のよさを理解してもらうことがまず必要だ。
それには、お店側からも懐石料理の味わい方を
お客に発信したりすることが有効ではないか、
などとついつい飲みすぎた勢いで、
プロに向って生意気なことを言ってしまった。
ご主人は、本当は十分に自分で理解してる上で、
私の持論につきあってうなずいてくれていた
京加茂さんに感謝。


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2005年10月20日(木)

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