“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第333回
老舗居酒屋「ふくべ」は温かい

八重洲にある「ふくべ」は
拙書「世界一旨い日本酒」でも紹介した
昭和十四年創業の老舗居酒屋。
寒風の吹くなか、久しぶりに訪れた。

「ふくべ」とめだたない看板がかかっていて、
外から見るとこの中にこれほどの快適な空間があることは
分かりにくい。
格子戸をくぐるとそこには
昭和初期にタイムスリップしたかのような、
古びてはいるが、綺麗に手入れされている
しつらえが迎えてくれる。
店名の「ふくべ」とは瓢箪(ひょうたん)のことで、
店内にさりげなく飾ってある。

まさに「Always三丁目の夕日」にでてくるような
店内のカウンターに座ると、
小さなお品書きの紙をお燗番の蛭田晴美さんが渡してくれる。
ここには全国の各県の地酒がそろっている。
東京には全国から人間が集まってくる。
誰がきても故郷の酒を飲めるようにという配慮だ。

まずは、山形の住吉を注文する。
もちろん燗で。
はるみさんが徳利の上に漏斗(じょうご)をさし、
その上に1合枡を置き、1升瓶から酒をなみなみと注いで、
最後に枡をひっくり返す。
コンという音がこきみよい。
徳利を燗つけ器にさして、
ころあいを見て手のひらで温度をさぐる。
まさに、芸術的なしぐさで思わず見とれてしまう。

徳利から小さめの聴き猪口に住吉を注ぐと、
濾過をほとんどしていないことが黄色い色からわかる。
どっしりとした味わいがとてもいい。
「ふくべ」の酒肴は居酒屋の定番のものしかおいていない。
料理屋ではないからという理由だ。
うるめ、厚揚げ、ヌタを注文。
いずれも一級の味で、酒が進んでこまるほど。

次に、白鷹、剣菱、それに菊正宗の樽酒。
いずれも灘の大手の酒だが、しっかりとした造りだ。
それらを燗にしてもらう。
合わせた酒肴は、〆鯖、薩摩揚げ、おでん。
〆鯖の〆ぐあいのよさに酒が進む。
薩摩揚げは香ばしく、魚肉の素朴な旨みを味わえる。
最後に秋田の新政の燗を頼む。
やや、アルコールが浮いた感じがあるが、
おでんと合わせて身体が暖かくなる。
そして、心も温かくなっている。

二人で6千円ほど。
最近ほとんど行かなくなっているが、
大衆チェーン居酒屋よりも安いのではないか。
「ふくべ」は特筆すべきいい客層であることも
居心地をよくしている。
騒がしい客などいないのは当たり前だが、
他の客を慮り、混んでくるとお勘定をして切り上げ、
さりげなく席を譲ったりする。
このような、お店の持つ暖かさが「ふくべ」の原点。
66年もの長い歴史を培ってきている。


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2005年12月7日(水)

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