“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第386回
芸者置屋だった割烹の居心地

私の研究室は大宮キャンパスにあるが、
たまに田町の芝浦キャンパスで会議がある。
最近気になっていた割烹が田町にあり、
やっと訪問することができた。

「い奈本」という古い一軒家で、
近くには協同会館という歴史的な建物がある。
実はここら辺は昔の花柳界で、
協同会館は見番、すなわち、芸者遊びの仕切り場。
お客が料亭に芸者遊びを依頼すると、
置屋に芸者を手配したり、花代の計算をしたりするところ。

「い奈本」はもともとは芸者の置屋をやっていて、
昭和45年から現在の居酒屋を始めたそうだ。
1階はテーブルとカウンター席。
2階は座敷となっている。

大学の同僚と近くで懇親会をしたあとで、
面白そうな店があるからと誘って、
大人数で「い奈本」を初めて訪問した。
看板には「ふぐ」とあるが、食事は1次会でしてきたので、
「ふぐ」のコースはまた次の機会に繰越。
コースは4500円からあるようだ。
ちょうど、店はすいていて、
1階でも2階でも大丈夫というので、
せっかくなので、2階の座敷に案内してもらう。
芸者さんたちが以前生活していた部屋はシンプルだが、
こぎれいで快適。
酒と簡単な酒肴を愉しむことにした。
日本酒の品揃えは、地酒?が八海山と久保田。
苦手な銘柄がそろっていて苦笑。
ともに、生産量拡大路線に走った蔵だ。

しかし、久保田のブランド戦略というのはなかなかたいしたもの。
それまでは朝日山というあまりぱっとしない銘柄を造っていて、
新たな銘柄の「久保田」は
久保田会という限られた小売酒屋にしか卸さない。
従って、普通の酒屋では久保田は購入できない
という販売方法が大当たりして、
幻の酒と評判になったわけだ。
しかし、久保田は月桂冠、白鶴、大関などの大手に続いて、
全国で生産量が15位〜16位と、
幻とは正反対の酒造メーカーだ。
新潟地震のときにも工場が潰れたと
テレビのニュースに取り上げられたが、かえって宣伝になり、
久保田が買えなくなると酒屋からの取引が増えたらしい。

八海山は昔はいい造りをしていて、
純米吟醸などをよく飲んでいたが、
久保田を追い越すことを旗印として、やはり拡大を続けてきた。
昔のような味わいが感じられない
平板な日本酒になってしまった。
大変残念なことだ。

そこで、選択したのは大手の菊正宗本醸造の燗。
菊正宗は燗あがりのする
バランスのいい生もと造りの歴史があり、
他に注文する日本酒が難しいときの助け舟となることが多い。
大七が生もとを導入したときにも、
故伊藤杜氏は菊正宗に実習に行って造りを学んでいる。
酒肴は〆鯖、ぶり大根などの定番のものを注文。
酔うほどに芸者さんたちの幻想を思い浮かべ、
快適な酒宴が続いた。


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2006年2月20日(月)

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