“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第468回
本物の椎茸が消える

椎茸の原木栽培の次の作業だが、
8月になったら、原木の天地を逆にする。
地面に近いところは風があまりあたらずに乾燥が遅い。
逆に地面から高いところは風が十分当たるので、乾燥が進む。
それを途中で逆にして、バランスよく乾燥するための配慮だ。
そして、もう一つノウハウがまた面白い。
次は、今回とは逆で、
傾斜の下から上へ向けて櫓を作っていくという。
何故かというと、外気の違い。

今回は空気が湿っているので、
原木に十分風を当てるために、地面から隙間が多い状態として、
傾斜の上から下へ向けた積み重ねをしたわけだが、
8月をすぎると外気は乾燥して、だんだんと冷たくなってくる。
それで、地面との隙間を少なくして、
風の当て方をいくらか少なくするというのだ。

この話を農家の方から聴いて、
日本の農業の知恵の深さを垣間見た。
これは、長い間に先人達が継承するたびに、
徐々に改良を重ねてきた伝統農法の結晶。
この、原木栽培の知恵によって、
半径が20cmに近い、立派な傘の椎茸ができるというので、
来年の春が実に楽しみ。
ところが、このような手間を惜しんで、
大量生産の菌床(きんしょう)栽培がいまでは主流となっている。
原木栽培では、前回の種付けでも、今回の原木起こしでも、
一人でやっても半日で処理でき、それほどの手間ではない。
それが、何故わざわざ椎茸の本来の風味がでない
菌床栽培にとって代わられているのだろうか?

原木栽培の椎茸こそ、本物の椎茸であるが、
その味を消費者が知らないからだ。
この椎茸の価値を消費者が認めて、
それなりの高い対価を払うことにならない限り、
農家では商売にならない。
スーパーでは安い菌床栽培か、
中国産、韓国産の椎茸を買ってしまう。
消費者の本物の味に対する無知が
日本の伝統農法を消滅させていることにもなっているのだ。
本物の椎茸を子孫に残すために、原木栽培の復活が望まれる。
それには、消費者の本物の味に対する意識改革が必要となる。
食育とは、子供以前に晩御飯の買い物をするオトナに対して
しなければならないのではないか。


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2006年6月14日(水)

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