“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第471回
初夏の味

徳島の山奥の割烹でいただいた懐石コース。
あいかわらず地味な調理方法のなかに隠された手間隙が
自然の素材の甘みを出していて、
しみじみとその美味しさを愉しむことができた。

お品書き

一、胡麻豆腐
一、前菜 天然鰻牛蒡巻、独活胡麻和、鮎鮨
一、椀 鮑と鱧のしんじょ ジュンサイ入
一、お造り アマテ鰈、鱧
一、焼き物 安田川の天然鮎
一、天然鰻の蒲焼
一、おしのぎ 鮎の骨せんべい、鰈の肝
一、炊き合せ 海老、蚕豆、筍 餡かけ
一、お食事 生姜ご飯
一、デザート 甘夏ゼリー、蚕豆

まずは、梅酒にクラッシュアイスが入ったものが提供され、
一同ほっと一息。
胡麻豆腐はもっちりとした粘りに、
いい出汁の味わいが調和して身体に優しく、胃が開いていく。
前菜の盛り合わせが見事。
鰻の牛蒡巻に徳島の地酒である旭若松の燗を合わせる。
ともにしみじみとした味。
笹が巻いてあるなかには、鮎鮨が隠れていた。
鮎の艶がとても綺麗。
ほのかな酸味が心地よい。
独活の胡麻和えには桑の実がさりげなく和えてある。
食欲が一気に拡大してくる。

椀は蓋を開けると、ほのかな海の香りが鼻腔をくすぐる。
なかには、なにかのシンジョで汁は白い。
一同食べながら、食材を推理するが、なかなか、答えがでない。
白い汁だから貝も入っているようだ。
で、正解は鮑をぶつ切りにして、
鱧のすり身と合わせたものだった。
派手さはないけれど、後を引く味わい。
店主の岩本さんの、まさに真骨頂。

お造りがまた旨い。
鰈はぷりっとした感触のなかに、甘みが潜んでいる。
鱧は煎り酒をつける。
ねっちりした食感。
ほのかな甘みが余韻で残る。
そして、大皿に笹が敷いてあり、
その上に焼き鮎が大量に乗って提供される。
6月初めで、
通常この店で使う馬瀬川などはまだ解禁になっていない。
早々と解禁になった、高知の安田川で
店主の岩本さんが釣ってきたものだ。
小ぶりだが、十分内蔵の苦味が出ていて、
頭からばりばりと食べられる。
夏の季節が到来したことを感じる、まさに走りの味。

天然鰻は吉野川上流のもの。
脂肪が少なく、淡白ななかに繊細な甘みが隠れていて、
噛むほどに口のなかに広がる。
表面は香ばしく、かりっと焼かれている。
骨せんべい、鰈の肝でまた燗酒が進む。
そして、炊き合わせの餡がまた絶妙の味。
あくまで海老、蚕豆、筍の引き立て役で、
主張は少ないが、主役の旨みをとてもよく引き出している。
生姜ご飯も最後を締めくくるにふさわしい美味しさ。
生姜のさっぱりした味わいで、
たらふく食べたお腹の中が落ち着いてくる。

このような派手さの無い、
自然の素材のよさをさりげなく提供す料理屋は
東京にも、京都にも、大阪にも見たことがない。
たぶん、東京や京都で食べ歩きをしている
グルメオタクや料理評論家がこの店を訪問しても、
この料理を理解することは難しいだろう。
店主の岩本さんは、もともと親が仕出し屋をやっていて、
吉兆で修行して家業を継ぎ、とても素晴らしい割烹を確立した。
メディアの取材も、たまに来ることはあるが、
彼らの要望の見場のいい、派手な料理をを
岩本さんは決して作ろうとしない。
それで、メディアもそれ以上この店を取り上げることをしない。
ということで、この店の具体的な情報はまだ勘弁いただきたい。


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2006年6月19日(月)

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