“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第686回
「生もと」が密かなブームとなる予感

日本酒の醸造の特徴として、
麹による糖化と酵母によるアルコール発酵が
同時に行われることがあげられる。
それで、酵母がよく働くように、
培養の素地をまず準備するプロセスが重要となる。
それが「酒母」、あるいは、「もと」と呼ばれている。

酵母は乳酸を好み、バクテリアは乳酸で淘汰されるので、
「もと造り」では乳酸をどのように出すかがポイントとなる。
最近は、もと造りの初期に大量の乳酸と優良酵母を投入する
「速醸酒母」による効率的な造りが大半だ。
これに対して、微生物の自然の興亡を利用して、
乳酸を作り出す伝統的な「生もと」は、
手間暇が大変で、もと日数も長く必要なために、
少数派となっていた。

福島県「大七」が採用して地酒好きに知名度があがったが、
もともとは、「生もと造り」は
灘の菊正宗、白鷹などの酒造メーカーで
伝統的に受け継がれてきた技術。
大七の故伊藤杜氏も、「生もと造り」を始めたときに、
菊正宗に一冬の期間に習いにいっている。
このような、灘の酒造メーカーを除いて、
「生もと造り」は地酒ブームが起こった頃は大変稀であったが、
最近は、随分色々な蔵で試みられるようになってきている。

「るみ子の酒」の森喜酒造場では、
大七の伊藤杜氏の弟子でもあった、
現在は久保本家で大活躍をしている加藤杜氏が一時造りをして、
「生もと」を伝承している。
森喜酒造場の造る「英生もと」は、
大変綺麗な味わいで、奥深く旨みが閉じこもっていて、
それが開くには数年間かかる。
「生もと」「山廃もと」というと、
癖のある香味と思っている地酒好きが多いが、
きちっと造った「生もと」とは、
実は綺麗な味わいだということが分かる。

竹鶴酒造も石川杜氏が3年前から「生もと」を始めている。
こちらも、すぐには味はでてこないが、
置いておけば、素晴らしい味わいになる。
石川杜氏によると、「生もと」の造りを始めて、
日本酒観がまた変わったという。
いい造りの「生もと」であれば、
原酒も加水もどちらの仕様でも、旨さが十分に出る。
それは、「生もと」に多く含まれる
ペプチドのせいではないかという。

秋鹿酒造も今年から山田錦を70%精白した「生もと」を
タンク1本だけ造った。
これが、素晴らしい。
新酒のうちから柔らかな旨みに溢れている。
そして、寝かせばさらにしまった旨さに変化することが
予想される。

尾瀬あきらさんの漫画「蔵人」も
「生もと」を中心に今後は展開しそうな雰囲気であり、
「生もと」はこれから密かなブームになるかも知れない。


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2007年5月7日(月)

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