“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第704回
虎屋壷中庵の晩春

まずは、赤い漆器の平たい杯が置かれて、
女将が食前酒を注いでくれる。
「おでんでん」という酒。
実は、この「おでんでん」とは田圃の名前で、
昔殿様用のお米を作っていたところ。
虎屋よりもさらに山の上に上ったところに位置する。
お酒の「おでんでん」は、
徳島の大坂屋さんという酒屋さんが呼びかけて、
毎年仲間で酒米を作っていて、酒造所に依頼して醸造したもの。
虎屋の岩本さんもその栽培仲間になっている。
上品な味わいで、スタートにちょうどよい。

まずは、小魚のゴリの卵とじ。
ほのかな出汁の味わいと玉子の旨みが
ゴリの香ばしさを支えて、食欲がどっとわいてくる。
次の料理は、笹鮨。
それに、筍の皮のなかに何かが顔をのぞかせている。
笹鮨は、アマゴ。
酢飯の加減がちょうどよい。
筍の皮に入っていたのは、鯛の肝。
適度な火の通し方で、旨みたっぷり。
だんだんと胃袋が開いてくる。

ここで、丸尾社長が持参してきた日本酒を開ける。
悦凱陣「純米大吟醸しづく 燕石」の5年熟成酒。
これが、なんともいえない熟成の味わいが押してきて幸せ。
吟醸香は全く感じない。
上品さと、どしっとした腰の強さの両方を感じ、
虎屋さんの料理の主張によく合う。

次の料理は鮑。
さっと湯引きしてあり、炙った肝が添えてある。
口に近づけると、海の香りが漂ってくる。
そして、口に含んでプリとした食感を愉しんでいるうちに、
甘みがぐっと口のなかに広がってくる。

ここで、悦凱陣「純米大吟醸しづく 燕石」を燗にしてもらう。
これが、鮑にまたよく合う。
すっかりと幸せな気分になっているときに、
携帯にメイルが入った。
誰からかと思ったら、家内から。
読むと2歳年上の兄がゴルフ場で倒れて
病院に救急車で運ばれた。
詳細は追って連絡してくれるという。
これは、帰りの便を早めて、
岩本さんの料理を途中で切り上げないとならないか、
との思いが頭をよぎった。


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2007年5月31日(木)

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