死ぬまで現役

老人を”初体験”する為の心構え




第72回
台所の改造費がマンション一室分

たとえば、私の現在住んでいる家は
昭和六十二年二月に完成したものだが、
古い家をこわしてその敷地に新築したものである。
古い家といっても、昭和四十四年に建てた家だから
まだ十八年しかたっていなかったし、
毎年、ちゃんと修理をしたり、外壁も塗りかえているから、
まだまだ新しい感じがする。
とくに台所は全面改装したばかりで、
どこの家にも負けない最新設備のものになっている。

というのも、ある雑誌で「有名人のお台所拝見」
という特集を企画し、
うちに台所を撮影させてもらえないかと依頼があった。
私の家はしょっちゅうお客をする関係もあり、
家に専門のコックもいるから、
雑誌社もそれを承知で頼んできたのであろう。
私に負担のかかることでもなかったので、
気軽に承知したところ、やがてできてきた雑誌を
うちの家内が私の部屋へ持ってきて、
「ね、見てごらんなさい。
うちよりずっとまずいお料理を食べている家でも、
台所はうちよりずっと立派ですよ。
この中ではうちの台所が一番貧弱でしょう。
こんな台所じゃはずかしいから、新しくつくりなおしましょうよ」

見かけはそうパッとしないかもしれないが、
うちの台所は一応、機能的にできているし、
よけいなお金をかける必要もないと思ったが、
「台所は女の城であり、私が一番長くいるところ」といわれると、
「好きなようにしたらいいでしょう」
と承知するよりほかなかった。
家内はコックの部屋とコックのバス・トイレをこわして
台所を拡張し、十五畳ほどのキッチンになおした。
流し台やガスレンジなども新しいのにとりかえるというので、
念のため、私はサンウェープも、クリナップも、
ヤマハも会社の偉い人とは懇意にしているから、
値引きの交渉はこちらでする、
あなたはどれがいいか見にいきなさい、とすすめた。
ところが、家内はそのどれも気に入らず、
大沢商会が代理をしていた西独のシステム・キッチンを注文した。
おかげで、台所の改造だけで千五百万円もかかり、
マンション一室買うくらいのお金が吹っとんだ。
それから間もなく大沢商会が倒産したことが新聞に載ったが、
「あんな高い、誰も買わないようなものを売っているから、
会社がつぶれるんだ」と私は悪態をついた。





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2015年5月6日(水)

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