死ぬまで現役

老人を”初体験”する為の心構え




第73回
改築は住む人の寿命に合わせて

やっと自慢の立派な台所ができて、
「豪華な台所ですね」とほめられて家内も喜んでいた。
ところが、それから二年もたたないというのに、
またもや、「この家をこわして建てなおしましょうよ」
といい出した。

家内にいわせると、
「この家があと十年もつことは私も承知しています。
いまこわしたらもったいないこともわかります。
でもいま、あなたは六十一歳でしょう。
あと十年たってこわすとしたら、
あなたは七十一歳になっています。
こわして建てなおして新しい家へ戻ってくるのに
早くて一年はかかるでしょう。
すると、あなたは七十二歳になっています。
人間いくつまで生きるかわからないけれど、
もし八十歳まで生きるとしたら、
その時からでは新しい家に八年間しか住めません。
どうせ新しい家に住んで老後を気誰に暮らすなら、
一年早くこの家をこわせば、
一年長く新しい家に住むことができます。
それならば、いますぐこわしたら、
一番長く新しい家に住めるんじゃありませんか?」

まことに理路整然としていて反論の余地がなかった。
どうも人生の先を読むことにかけては、
彼女には天才的なひらめきがあるらしい。
昭和四十四年にこの家を新築して引越してきた時も、
彼女は「この家は十年しか持ちません。
十年すぎたら、空中分解してしまいます」と予言した。

十年たったら、長女がいくつ、長男がいくつ、
次男がいくつ、と計算すると、
子供たちはそれぞれ所帯を持ったり、外国へ留学に行ったりして、
家にもあなたとわたししか残らない筈である。
「ですから、家を建てたから一安心だなんて思わないで下さい。
同じことはそんなに長くは続かないんですよ」と彼女はいったが、
十年先のことをいわれても仕様がないので、
私はとりあわなかった。

ところが、十年たってみると、長女は嫁に行き、
長男は嫁をもらい、
二男はニューヨークに留学に行ってしまった。
「それに……」と彼女は次のように付け加えた。

「あんまり年をとってから引越しをすると、
引越し疲れで死んでしまう人があるんですよ。
折角、新しい家をつくっても、
その家に住む運がないというか、いくらお金を貯めても、
お金を使わずに死んでしまう人が世の中にはたくさんいます。
だから少々もったいないと思っても、
自分が生きている期間も勘定に入れて、
家をこわして新しく建てなおしましょうよ」
と彼女はいうのである。

この家があと何年もつかを考えるより、
人間のほうがあと何年もつかを考えて、家でもお金でも、
それに合わせて動かすのが本当だというのである。
いわれてみれば、たしかにその通りだから、
とうとう私も家をこわして新しく建てなおす決心をした。
約一年半、そのために他に引越さなければならなかったが、
そのために新しいマンションを買ったら、
住んでいる間に三倍にも値上がりをした。

また高い高いとこぼしながら、
一流建設会社に家を建ててもらったが、
その後、建築費が倍にあがった上に、
人手不足で大手ゼネコンが私の家のような
スケールの小さい仕事はやらなくなった。
お金儲けを考え、タイミングを狙って
そうしたわけではなかったが、
自分の持ち時間に合わせてやったことが
結果としては好運にめぐりあうことになった。





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2015年5月8日(金)

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