死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第19回
思わぬ大金は、ほとんど手元に残らないと考えたほうがいい

人間にはそれぞれ、お金を入れる「器」があるみたいです。
いくら大金がころがりこんできても
その人自身に大きな器がなければ、
すぐにこぼれ落ちてしまいます。

大きな器がない人が、思いがけない大金を手にしたら、
どんな滑稽なことが起こるかは、
一億円拾った人の反応ぶりを見たら、おわかりになるでしょう。

植物は適度な水の量を与えれば育ちますが、
多すぎると枯れて死んでしまいます。
どちらかといえば少ないほうが枯れることはありません。
人間もこの原理と同じで、
お金を持ちすぎてダメになる人のほうがずっと多いようです。

何度か思わぬ大金を手にすると、
今度は、その大金を器からこぼれないように
工夫するようになります。
とくに中年以降になると、それがうまくなります。

いっぽう、中年になって大金を手にすると、
人が変わったようにケチになる、ということもあるんです。
大金持ちの子どもなどにも、同じようなことが言えます。

大金持ちの家に生まれても、
親がケチで思いどおりにお金が使えず、
お金に対して欲求不満ですごしてきたといった場合、
親が死んで、突如として
大金が自由に使えるようになったとたんに、
それまでの欲求不満を爆発させ、
待ってましたとばかりに散財してしまう。
そういう息子は、それだけの器ではなかったと言えるわけです。

では、どうやったら
お金を入れる器を大きくすることができるでしょうか。

かつて日本経済も、
「鍋の底が浅い」とよく言われました。
底が浅いので、アメリカの景気がよくなって、
ほんのすこし注文がはいると、
すぐに応じきれなくなって沸いてしまう。
そういうのを「鍋底景気」と表現した時代がありました。

しかし、日本の産業が、繊維や雑貨から、
製鉄、自動車、電気製品、石油化学、
コンピュータへ移るにつれて、
もはや「底が浅い」とバカにされることはなくなってきました。

小さな器も、たび重なる拡大をくり返しているうちに、
大きな器と入れ替わるようになり、
溢れてこぼれることが少なくなりました。

それと同じように、小さなお金しか持たないあいだは、
すぐにこぼれますが、
何回かもったいない体験を積むと、
しだいに要領がわかってくるものです。

始末をするときはきちんと始末をし、
お金を使うところはちゃんと使うようになれば、
お金がだんだん身につくようになってきます。





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2013年4月20日(土)

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