死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第11回
不動産は借金で入手するもの

大体、土地というものは高い高いと思いながら、
何かの都合で無理をして買うことになり、
気がついてみたら、あの時は高かったが、
今になって見ると、よく手に入れたものだなあと
自分で感心することが多い。
はじめから安いと考えて土地を買う人など滅多にいないのである。

第二に、なるほど東京の土地は、
短い間にびっくりするほど高くなってしまった。

都内の住宅地で坪当たり三百万円、五百万円、
一千万円というのが珍しくなくなってきた。
かりに坪五百万円として百坪の敷地に住んでいる人は
たくさんいるが、
それを新しく五億円投じて手に入れるのは容易なことではない。

法人なら別だが、月給二百万円もらっている社長だって、
税金を支払ったあとの手取りのお金の中から
その代金を支払って行くことはできないだろう。

だから今からフツーの人が東京都内で
二階建てのお邸を構えることは無理である。
しかし、土地の暴騰しているのは、
さしあたり東京だけであり、全国的な傾向とはいえない。

商業地域なら、大阪、名古屋、
やがて札幌とか福岡とかいった
百万都市に広がって行く傾向はあるが、
住宅地の値上がりは、おそらくそんなには激しくないだろう。

というのも、住宅の数が所帯数を
既に五百万戸以上もオーバーしており、
今後住宅地域の値上がりはあまり望めないと見るのが正しいし、
ことに人ロの過疎化のすすんでいる地域に行くと、
地価の上昇はすっかりスローダウンしてしまっているからである。

したがって東京の都心部で
マイホームを新しく持つことは困難だが、
郊外とか地方都市に行くと今でも、
十年前、二十年前の東京周辺のような不動産の値段にすぎない。

私の友人の中にも地方都市で住宅開発に従事している人がいるが、
話をきいて見ると、二階建ての家でも
価格が二千万円を超えてくると、
グーンと足が鈍くなるという。

地方に住む人々の収入と照らしあわせれば、
それは当然のことであり、たいした経済の成長もなく、
たいした収入の増加もなければ、
不動産の動きがそれだけ鈍くなるのは当たり前であろう。

しかし、そうした東京と格差のついてしまった地方都市でも、
それぞれの地方なりの移り変わりはある。
なるほど東京ほどの激しい変化はないかもしれないが、
地方都市にも旧市街地と新興地があり、
また住宅がドンドンふえている地域と
すっかり人気の衰えてしまった住宅地がある。

町は生きており、新陳代謝が絶えず起こっているので、
どこに土地を買い、家はどこに建てたほうがよいかという問題は
依然として残っているのである。

第三に、不動産を手に入れるためには、
どうしても借金のカを借りなければ、物事がうまく運ばない。
今も昔もこのことに変わりはなく、
百億円の不動産を手に入れるのにも、
むろん、借金をしなければならないが、
二千万円のマンションを手に入れるのにも
同じように借金の必要が起こる。

どうして借金をしなければならないかというと、
まず自己資金だけではお金に不足をして、
欲しい物件が手に入らないからである。

借金して先に手に入れて、あとから借金を返して行くと、
とにかく欲しい物が手に入る。
次に借金をしてあとから返済をして行くと、
インフレによって返済が容易になり、トクをすることが多い。
これは経験則から見てほとんど間違いなくそうなっている。

だからといって今後も
必ずそうなるのだときめてかかるわけには行かないが、
貨幣制度そのものがインフレ体質になっているーと
私は見ているので、三年、五年ではそうならなくとも、
十年たつと必ずインフレの洗礼を受ける。

十年にーぺんでも不動産が倍になるようなインフレが起これば、
借金をして買った物が倍になり、
借金は半分になってしまうから、
借金の返済は容易になり、肩の荷は一挙に軽くなる。





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2013年7月28日(日)

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