死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第13回
家は貸すより借りたほうがトク

しかし「家の値段が高くなりすぎて、
採算を無視した価格になっていることもまた事実である。
ことに、住宅の数が全体として所帯数を追かに上回ってしまうと、
空家がたくさんあるようになり、
それが貸家として次々と借り手を探しに出てくる。

たとえば、時価で三千万円する家でも、
貸すとなると、五万円とか、
六万円とかいうのはザラである。

五万円なら利回りはニ%だし、
六万円でも二・四%にすぎない。
十万円としてもたったの四%で
公定歩合の引下げにあわせて
引き下げられた定期預金の利回りにも及ばない。

もし利回りが低くても、土地の値上がりがあって、
いわゆるキャピタル・ゲインが期待できるなら、
四%が二%であっても一向にかまわない。
ところが、十年前に買った東京郊外の住宅地を
いま売りに出しても、十年前より高くは売れないし、
ところによっては、
二、三割の値下がりになっているところもある。

まして建っている家が古くなって行くのも勘定に入れたら、
明らかに貸すより借りて住んだほうがトクなのである。
ではどうして居住用の不動産が貸手に不利かというと、
まず第一は家が多くなりすぎて
需給のバランスが崩れてしまったことである。

第二は居住用の家は、賃貸用につくられていないために、
不必要なところにお金がかかりすぎており、
しかもかかったお金に対して賃料がとれないことである。
第三に、日本の国にはサラリーマンの人事異動があって、
多くの人々が自分の家に住めなくなり、
やむなく賃貸用に転用することが多いからである。

したがって居住用の不動産は、
いざ人に貸すとなると、利回りが信じられないくらい低くなり、
貸した人より借りた人がトクをする。

トクをすれば、人はそのトクなところにしがみつきたくなるから、
出て行ってくれと言われても、
居座ってしまうことになる。
郊外のあまり値打ちのない住宅ではあまりそんなこともないが、
町中の時価何億円もするようなところになると、
引っ越し料をもらうために
何年でも頭張っているような光景によくぶっつかる。

この意味で、居住用の目的で建築した家を
賃貸用に転用するのは得策ではないし、
したがってマイホームを持つのも、
採算上から言っても決してトクとは言えない。
しかし、マイホームは自分たちが住むところだし、
家族が団欒するための場所であるから
ソロバン勘定だけで判断できない別の値打ちを持っている。

コスト・バリューよりも、センチメンタル・バリューが
幅をきかせるのがマイホームなのである。

だからまだマイホームを持ったことのない人にとっては、
ソロバン勘定だけでははかりきれない別の値打ちがあるし、
また既に自分の家を持ち、
何不自由はないのだが、
もっと大きな邸宅を構えたいと考えている人にとっても、
同じようにセンチメンタル・バリューのあるものである。

既に充分、経済的余裕に恵まれた人は、
もうお金の心配はしなくてもよいのだから、
どんなに採算を無視してもよいと思うかもしれない。
しかし、あまりに大きな家に住むことは、
田中角栄とか、武富士の会長とかを見てもわかるように、
別のデメリットがある。

また初めてマイホームを持つ人は、
お金がないのに無理をして家を手に入れるのだから、
無駄な出費をできるだけ避けたいものである。
して見ると、御殿のような家からワンルーム、
マンションに至るまで、
すべてマイホームを持つ人には
すべて守るべきマイホームづくりのルールがあることがわかる。





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2013年7月30日(火)

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