死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第43回
不動産は企業の安全弁

これまで述べてきたことからもおわかりのように、
今までのところ最も安全でかつ有望な投資対象は不動産である。

少なくとも今までのところ、戦後からこの方、
不動産はあがることはあっても、下がることはなかった。
しかし、だからといって、
今後も絶対に下がらないという保証があるわけではない。

現に、香港でも土地は下がっている。
シンガポールでも下がっている。
フィリピンなどはもっと激しいことになっている。
売り物ばかりで、買手はどこにもいないのである。

しかし、よく考えてみると、
これらのどの地域にも、
土地の下がるはっきりした理由がある。

香港には一九九七年の返還問題があるし、
フィリピンの政情不安は、
若王子氏誘拐事件に対する政府の対応ぶりーつ見ても、
容易に額けるところである。

シンガポールの場合は、
政情不安こそないけれども、
経済政策のミスで工業生産が成り立たなくなったことと
かかわりがある。
富の創造がなくなるか、資本の逃避が起きるか、
人が集まらなくなったら、不動産に対する信頼感がらすらぎ、
地価の反落ということが起きるのである。

今の日本経済は戦後最大のピンチに見舞われているが、
政情についても、富の創造についても、
また資金の動きについても、
地価の下がる方向には向かっていない。

お金の流れは相変わらず日本列島に集まっているのに、
生産設備に対する投資がすっかり冷えきってしまったので、
金あまり現象が怒濡の勢いになり、
それが投機資金化して、
地価と株価を抑し上げる結果になっている。

東京の地価のあがり方を見ていると、
空前の大暴騰であるが、
大暴騰のあとに反落はつきものだから、
買いすぎて資金ぐりのつかなくなった業者とか、
目先の高値をつかんだ目先筋が投げれば、
一時的に地価が安くなることも
まったく考えられないことではない。

しかし、かりに土地があがりも下がりもせず、
長期にわたって横這いを続けたとしたら、
はたしてどうなるであろうか。
いくら金利が五%台、六%台の超低金利であったといっても、
五年も七年も続いたら、
利子を生まない空地は大赤字の原因になる。

土地の投機に耐えられるのは、
ほとんどがほかに本業を持っているか、
ほかに不動産収入があって、
支払い金利はほかの収入でカバーできる企業に限られる。

個人のように赤字の繰越しのできない立場の者は、
金利を資木に繰り入れるよりほかないから、
税金に金利を払ってもらうわけには行かないのである。

ただ長期的に見ると、
いつも土地の値上がりは支払い金利をカバーしてなお
あまりがあるのが普通である。
したがって不動産は長期的には充分、
引き合っており、もしその結果、
倒産をした会社があるとすれば、
それは金ぐりに問題があったか、
欠陥商品にひっかかったか、それとも詐欺にあったか、
のどちらかということになる。

ましてや不動産投資のための金利を
ほかの収入でカバーできる立場にいたら、
不動産は会社の安全弁になることはあっても、
重荷になることはまずない。

不動産に関心を持つ人は大きく分けて二種類考えられる。
一種類は不動産を業とする人たちであり、
もう一種類は不動産を資産として保有する人たちである。
不動産を業とする人々は、不動産を売買したり、
賃貸、管理することによって生計を建てる人たちだから、
当然、不動産の動向には人一倍、関心を持っている。

しかし、不動産業者は、不動産については木職だからといって、
不動産の先行きについて
つねに明確な見通しを持っているわけではない。
ちょうど証券会社のセールスマンが
株価の将来に対して何もわからないのと同じだと思えばよい。





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2013年9月10日(火)

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