死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第42回
新都市づくりが成長産業に

しかし、都心で働いている人のすべてが
シティ・ボーイというわけではない。
実際問題として都心部の地価は高すぎるし、
サラリーマンが安月給のなかから
ローンを支払って行くのには向いていない。

それに比べると、いつの時代でも
距離に比例して地価は下がって行くから
支払いが軽くてすむようにしたければ、
遠くに行くよりほかない。

東京に人が集まれば集まるほど
サラリーマンの家は都心から遠ざかって行く。
そのため平地という平地を埋め尽くすように
住宅が関東平野を埋め尽くして行く。

渋谷も新宿も池袋も、もとをいえば、
東京の郊外だったのだが、
郊外がドンドン広がって行くと、
この間まで遠い郊外だったところが近い郊外に変わって行く。

ずいぶん東京から離れたところでも
新しく駅ができると駅を下りたところに商店街ができる。
スーパーもあればデパートもでき、
銀行や証券会社が立ち並ぶ。

マクドナルドやロッテリアやデニーズのような
チェーンのレストランもできてくる。
そういう衛星都市の駅前地所はいくらかときいてみると、
結構、坪当たり一千万円、二千万円などと
桁がーつ上のものもあって、
都心部の土地とそれほど大差はない。

おそらく二十年前、三十年前は反当たりいくらで
勘定したところだったろうに、
そこに人が集まってきたというだけの理由で、
成り立たなかった商売も成り立つようになって、
気がついてみたら土地の所有者は
億万長者になっていたのである。

その点都心部の土地は、昔から高い。
高くても、もっと高くなれば投資の対象にはなるが、
郊外の田圃の真ん中だったところが値が高くなるほうが
ずっと効率がよい。

だから高いものがもっと高くなるのを狙うよりは、
安いものが爆発的に高くなるのを狙ったほうがよい。
そういった意味では、郊外の土地のほうがずっと面白いし、
小資本向きの投資対象であるということもできよう。

現に郊外の土地を専門に買って土地成金になった人は多いし、
そういう人ロのふえつつある地域に
土地を持っていた農民は例外なく金持ちになっている。

ただ住宅が次から次へと郊外へ広がって行って、
やがてその数が世帯数をオーバーするようになると、
住宅に対する実需は大幅に減少する。
すると、郊外で建売りをしていた建設会社も仕事はなくなるし、
今まで土地を買い漁っていた人々も
土地を買わなくなるから、
住宅地の動きがピタリととまってしまう。

一頃、電鉄会社の売り出した分譲地を
空地のまま所有してきた人が
お金の必要に迫られて売りに出したら、
十年前の分譲価格より安い値段を
電鉄会社からつけられた話をきいたことがある。
それを見て、
「いよいよ土地の神話が崩壊する時期にきたぞ」
とラッパを高々と吹きあげた住宅評論家の人もいる。

しかし、ここへ来て都心部のマンションが
大幅に値上がりしたので、再び様相が一変した。
さきに述べたように、
本当は二階建ての庭つき住宅が欲しかったが、
お金がなくてやむを得ずマンションに住んでいた人々が
マンションを売却して郊外に移っていると言う。
そういう人がふえると、
今まで都心部の土地だけが値上がりしていたのが、
次第に郊外の住宅地にも広がって行く。

おそらくこれから二、三年のうちに、
かなり地価の水準訂正が行われると考えてよいだろう。
ことに郊外では単なる住宅地よりも、商業用地とか、
あるいは、賃貸用不動産の建設が
可能な土地の値上がりが目立ってくるであろう。
どうしてかというと、住宅地があがるといっても、
マイホームに対する実需はそんなに強いものではなく、
住居は借家住まいで結構だという風潮も
次第に盛んになってくるし、
それに合わせた投資が行なわれるとすれば、
不動産に対する需要は、商業用、
もしくは投資向きに集中するようになって行くからである。

したがって地方における不動産の値上がりは、
まず東京都の郊外からはじまり、次は首都圏に広がって行く。
郊外も古い町並みのところは必ずしも思わしくなく、
むしろ新しくスーパーや
ショッピング・センターのできるところとか、
住宅がふえつつあるところが値上がりをする。

ことにこれから十年もすれば湾岸道路もさることながら、
首都圏の各地をつなぐ道路が完成するにつれて、
今まで想像もしなかったような
新しい都市づくりがはじまるだろう。

東京都内の住宅地が値上がりして、
人が住みづらくなった分だけそうした人々を受け入れる
「受皿」の値打ちが出てくるので、
新しい都市づくり、町づくりは、
この次の成長産業として
日本をリードする役割をはたすものと思われるからである。





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2013年9月9日(月)

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