死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第52回
財テクの資金は土地に向かう

不動産を業とするものは、不動産を売買したり、
所有したりすることによってお金を儲けるのが目的だから、
物の不足する社会ではあまり重要視されない。

一般に不動産業は非生産的な事業だと思われている。
ことに、地価の上昇期には、
土地ころがしをやったりして巨利を貧るので、
かなりヤクザな商売と思われているフシもある。

しかし、お金儲けが目的なら、
不動産業はそんなに悪い商売ではない。
生産事業は多くの人々に生活必需品を提供する商売だから
人々の役に立っているというプライドがあるが、
生産事業だって追求の目的は営利である。

原料や素材や部品を仕入れてきて、加工したり、
組み立てたりして、原価に何割かの利益分をかけて販売する。
たとえば、原料や部品に一万円支払い、
人件費や管理費や販売費に一万円かけてつくった
テープレコーダーを三万円で売る。

売れなければ、何万円かかったものだろうと
一文の値打ちもないが、三万円で一万台売れれば、
途端に一億円の付加価値が実現し、
会社に新しい富が一億円加わる。

しかし、一台三万円で売れるテープレコーダーを
一万台持っていても、
三億円の財産を持っていることにはならない。

一万台のテープレコーダーは商品であって、
うっかり売れ残ったら、型も古くなるし、値も下がるし、
不良在庫になってしまう。
だから1日も早くお金に換える必要があるし、
お金に変われば、二億円の支払いをすませたあと
一億円のお金が手元に残る。

もちろん、この一億円が
そのままそっくりポケットに入るわけではなく、
税金もかかってくるし、
会社の収入であれば
個人のポケットに移しかえるまでに
まだ色々の手続きが必要であろう。

ただし、最近は税務対策のことも考えて、
個人の所有に固執する人が少なくなった。
むしろ会社を個人のポケットと考えて、
財産の大半を会社の所有にし、
それを支配する方法が合理的だと思われている。

そういう意味では、税金対策さえできれば、
配当などはしなくともよいから、
どうやって会社に含み資産を残すかにだけ頭を使えばよい。

したがって会社が一億円の利益をあげれば、
その一億円を会社の生産能力をあげるために
再投資してもよいが、
流動資金として銀行に預金しておいてもよい。

しかし、次から次へと、
また利益があがってくる自信があれば、
人は、個人のものにせよ、会社のものにせよ、
儲かったお金を安全な投資に回そうとするであろう。

現金を現金のままおいておくことは、
企業として時には必要である。
手形で支払うかわりに現金で支払えば、
物を安く買えるし、取引先の信用を深めることにもなろう。

受取手形を銀行で割引かずに、
支払いを手持ち現金ですませてしまい、
期日まで銀行に預けておけば、
銀行はいよいよ信用するようになるであろう。

しかし、現金で仕入れても安くならないこともあるし、
手形で支払っていただければ結構です、
という相手もあるだろう。
銀行にしても、金を貸すのが商売だから、
割引をやめてもらっては困るという面もあろう。

ことに昨今のように、金あまりが表面化してくれば、
お金を返す話は銀行にとって有難い話ではないのである。

それならば、さしあたりあまった資金は何に使えばよいのか。
最近の言葉で言えば、
お金を動かしてお金を儲ける「財テク」ということになるが、
企業にしても、個人にしても、
経済の発展が続いている限り、
次から次へと富の創造が行われ、新しいお金が入ってくる。

そのお金は年と共にふくれあがってくるだけでなく、
ふくれあがった分だけ購買カが下がる傾向を見せている。
すなわち年と共にお金の値打ちが下がる。
そうしたお金が財産価値のある安全な逃げ場を考えるとなれば、
当然、土地ということになろう。
付加価値は次から次へと創造されるが、
土地は生産することができないからである。

もし高度成長経済下の日本人が脇目もふらずに工業生産に励めば、
日本人はたちまち大金持ちになるだろう。
そうした人々がせっせと貯め込んだお金が
やがて土地に向かって大進軍をやるのなら、
土地は限りなく値上がりをして行くことになるだろう。

ならば、そもそも苦労をして工業生産で
お金儲けをするのもお金儲けだが、
やがて土地を買いに来る人の先回りをして
土地を買って待っているのもお金儲けのーつであろう。

すべての不動産業者がこうした深慮遠謀の下で
不動産屋になったわけではもとよりないだろうが、
不動産で産をなした人々のお金の儲かり方を分析してみると、
こういった動きになっている。

したがって下手な商売をやるくらいなら、
不動産屋のほうがずっとチャンスが多い分、今後も多いだろう。
また商売としても難しいものではないだろう。

なにせ工業製品は売れ残ると、型が古くなったり、
値下がりしたりするが、土地やマンションは売り損なうと、
やがて値上がりして頭の痛かったことを
すべて解決してくれるからである。





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2013年9月19日(木)

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