死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第54回
節税に役立つ含み資産づくり

第三に不動産は税務対策上、役に立つ。
不動産は、個人の所得税の節税にも、
また相続税の節税にも、
使いようによっては重宝な存在であるが、
相続についてはいずれ章を改めて詳述するとして、
会社の場合、利益を調整する手段として威力を発揮する。

ご承知のように、個人が自分の住む家や
マンションを買うために借金をしても、
その金利を経費として所得税から控除してもらえない。

個人でも、賃貸用の不動産を買って収入を得、
その収入が金利や減価償却費のような支出に足りない場合は、
損失分を総合所得から控除してもらうことができる
(アメリカでは個人の住居のための
ローンの金利もみな控除できる)。

一方、法人の場合は、自社用だろうと、賃貸用だろうと、
経費はすべて損金算入ができる。
したがって不動産を買えば、
金利も管理費も減価償却費もすべて
経費として計上することができる。

このことは会社でお金が儲かるときに、
借入れを起こして不動産の買入れをすれば、
経常利益を減らすことができるということにほかならない。

広く資本を集めて株も上場しているような大会社では、
株主に配当金を払わなければならないし、
あるていど利益を計上しなければ株価にも影響するから、
儲けの大半を不動産に注ぎ込むようなことはできない。

しかし、家族会社か、それに毛の生えたていどの会社なら、
予想のできる利益を金利に支払うことによって、
利益の調節をすることは可能である。

たとえば、年に二億円の利益のある会社は
約一億二千万円の税金を支払わされる。
十年間それが続くとして、十年間で八億円のお金が手元に残る。

もちろん、八億円が再投資されるなり、
金利を稼ぐなりすれば、その分にも六〇%ていどの
法人所得税がかかる。

今もし年に確実に二億円の利益が見込めるならば、
銀行から二十億円のお金を借りて土地を買い、ビルを建てる。
かりに銀行金利が八%としたら
(昨今は低金利によってこれよりかなり安くな っているが)、
年に一億六千万円を金利に支払う。

この結果、利益は四千万円に縮小してしまうから、
税金はその半分の二千万円くらいですむだろう。
すると、十年で二億円のお金が手元に残る。

一方、二十億円投じてつくったビルは年に一億円か、
それ以上の収入をもたらすかも知れないが、
昨今は土地が高くなって利回りが、うんと悪くなったので、
六千万円くらいということもあり得る。

この中から減価償却費や修繕費や管理費を差し引いた分が
利益に計上されるが、
この分も税引き後二千万円ずつ残るとしたら、
合わせて四億円のお金が手元に残る。

ところが、十年たつと、物価もかなり変動し、
地価もかなり水準訂正が行なわれる。
過去に起こったことが今後も起きる
という保証があるわけではないが、
不動産が二倍、三倍になることはごく常識的な線であろう。

私の住んでいる家などは二十年間でちょうど百倍にはねあがった。
それほどではなくても、三倍あがっただけで、
二十億円のものが六十億円になってしまう。

借りた二十億円を一銭も返済しなかったとしても、
含み資産で四十億円分と現金で四億円のお金が残っている。
すなわち利益のなかからまともに税金を払っていると、
八億円しか手元に残らないが、
予想利益の十倍の借金をして不動産投資をしておくと、
不動産が三倍になっただけで、
四十億円の含み資産と四億円の現金資産ができるのである。

どうしてこういうことが可能かというと、
(1)不動産を取得するために支払った金利は
経費として認められる。
(2)不動産の含みがふえた分は、その不動産を処分しない限り、
所得と見なされず、したがって所得税の対象にならない、
からである。

つまり所得を発生させたら、
所得税を免れることはできないが、
所得を発生させずに含み資産をつくることができれば、
いくら大きな含みをつくっても、
課税の対象にはならないのである。

こうした「含み資産」のことを
私は「絵に描いた餅」と呼んだが
「絵に描いた餅」が役に立たないかというと、
もとよりそんなことはない。

まず会社が赤字になった場合は、
不動産の処分をして赤字を埋めることができる。
その不動産に毎月きまった収入があれば、
それで月給を払うこともできる。

また時価六十億円に対して二十億円か、
それ以下の借入れしかなければ、
いつでも二、三十億円くらいの新規借入れを起こすこともできる。

つまり含み資産は、
それを売ってお金に換えると税金の対象になるが、
売らないで保有している限りは、信用のシンボルであるし、
また借金の担保として活用することができるのである。

日本の戦後のお金持ちが何千億円持っていると言っても、
いずれもこういう形で持っているにすぎない。
それは日本の税制がつくりあげた新しいタイプの資産家であるが、
自分の名前で持っていても、
自分が支配している会社の名義で持っていても、
基本的には何の変わりもない。
要はその不動産を活用できる立場にあるかどうか
だけのことである。





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2013年9月21日(土)

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