死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第62回
借金は財産を掘り起こすテコ

既にマイホームがあるか、
マイホームのローンの返済について目途がたっている人が
二軒目の賃貸マンションか、
収入向き不動産を手に入れるために
ローンを新しく起こす場合は、
毎月の収入から毎月の返済分を差し引いたあともおつりがあれば、
あとは税金の心配をするだけでよいが、
差引き不足になれば、さしあたり不足になった分を
どうして埋めるか、が問題になる。

かりに不足が出て、
その不足分をほかの収入で埋めることができたとしても、
返済分の中には、利息の支払い分と元金の返済分が含まれている。
利息分は経費として家賃収入の中から控除できるが、
元金返済分は所得の中から支払われるから、
返済分から減価償却費や修繕費や管理費を差し引いても、
まだ余剰があれば、総合所得として申告しなければならず、
所得税のふえることも覚悟しなければならない。
その代わり差し引いた残りが赤字であれば、
ほかの所得からその分だけ控除できるから、減税になる。

マンション投資の中には、
年の利回りが10%以上にまわった時代もあり、
30%も頭金を払えば、
あとは持ち出しにならないですんだことがあった。

そういう場合でもローンの返済が完全に終わるまでは
自分の物になったとはいえないが、
頭金を払っただけであとは一切、
支払いが要らないのだから、
あとは時間の経過を待つだけである。

実質上、自分のものになったといってもそんなに
間違ってはいないであろう。
しかし、昨今は不動産の値上がりが激しく、
利回りもうんと低下したので、
30%の頭金では、とうてい間に合わなくなり、
利回り五%か、六%ていどの物件なら、
必要資金の半分は自己資金でないと、
毎月の支払いに不足を生ずるようになる。

不足が生じても、ほかに家賃収入があったり、
サラリーそのほかの収入でカバーできれば、
もちろん、不安がる必要はない。
要するに、返済に必要な資金の手当てさえできておれば、
不動産を手に入れるための借金をしても心配はないし、
むしろそのほうが企業の安定度は高まる。

どうしてかというと、無借金で不動産を持っておれば、
不動産が値上がりをした分だけしか評価はふえないが、
借金して不動産を買うと、自己資本の少なくとも三倍は買えるし、
三倍のものが倍にあがれば、
評価は六倍であるのに対して借金は二倍に据え置かれ、
自己資金が一挙に四倍にふくれあがったことになるからである。
不動産で産をなした人々は
すべてこのコースをとおって財産をふくらませており、
借金が不動産にとって、
財産を掘り起こすテコの役割を
はたしていることは疑いの余地がない。

そうした個人や個人に毛の生えたていどの企業が
借金の返済ができなくなったら
どうしようと気を採みながらやっている借金は
そんなに心配なものではない。
不動産投資はもともと借金を前提とした経営が普通であり、
借金の旨味がわかればわかるほど借金に対して大胆になり、
借金をしていることに対して油断が生じてくる。

日本では今までのところ、
カントリー・リスクがまったく懸念されていないし、
土地が大暴落をした前例もない。
そのために大胆に借金をして手を広げてきた人々が
成功をおさめた。

しかし、香港へ行ってもシンガポールに行っても、
また台湾に行っても地価が最高値の三分の一、
もしくは、半分に暴落した実績には事欠かない。
したがって土地投資をする人は
どうしても慎重にならざるを得ないのである。

では、不動産投資に際して借金は避けられないとしても、
自己資本に対してはたして借金はどのくらいの比率が正しいのか、
また所有している財産からの収入がどのくらいになり、
また、それがどのくらいの利払いに
耐えられるのかが心配になってくる。

月々の収入で月々の利払いが可能であれば、
借金はまったく心配ないし、
含み資産が借入金の何倍もあって、
いざと言うときも返済原資に困らなければ、
これまた借金経営に不安はない。
むしろ積極的に借金をしなければ、
税金で頭を痛めることになりがちだから、
借金をして利払いであるていど調整をしなければならないだろう。

つまり不動産投資はスタート時が一番難しく、
時間がたつにつれて含み資産がふえてくるので、
担保能力もついてくるし、借金も容易になる。
昔、捨値で買ったような不動産に
思わぬ値の出てくることも往々あって、
「腐っても鯛」というようなことが
不動産投資にはしばしば起こるのである。

それにしても借金ほど不動産投資の役に立つものはない。
見境のない借金をして返済不能におちいり、
倒産をした者にとって借金ほど恐ろしいものはないが、
借金の重荷を恐れて投資をひかえ、
現実に大漁に逃げられた体験をした者にとって、
慎重すぎたことほど後悔されるものはない。

ならば借金はいくらしてもしすぎることはないかというと、
最終的には返済能力がブレーキになるし、
それ以前に、不動産を連営する本人の性格がブレーキになる。

結局、どんな人もブレーキを効かせながらの不動産投資になるが、
結果から見ると、
勇猛果敢に借金をして買いまくった人に軍配があがっている。

だからといっていくら借金をしてもよろしい
ということにはならないが、
「設備のための借金は慎重しすぎるくらい慎重にして、
逆に土地を買うための借金は縄目を少しゆるめる」
といったやり方でちょうどよいような気がするのである。





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2013年9月29日(日)

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