死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第61回
借金の「ここまで安全」の境界線

しかし、だからといって、
誰でも不動産に手を出したら成功できるということではない。
何十年やっても街の不動産屋から一歩も踏み出せない人もあれば、
ズブのシロウトから乗り出して、
一代でトップにおどり出してくる人もある。

七〇%は運に恵まれていたとしても、
さしあたり莫大な借金を背負い込むことに対して、
かなりの勇気とゆるぎのない自信がなければ、
とてもやれないことである。

たとえば、私の友人に、この三年間で
不動産投資のために三千億円も借金をふやした人がある。
一口に三千億円といっても、
六%の金利として年に百八十億円の利払いが必要になる。
一日五千万円の利払いであり、
気の小さい人なら、きいただけでも卒倒してしまう。

借入金の大半は空地の仕入れに使われており、
収入が伴わないことははじめからわかっているから、
値上がりをした土地を処分して金利分を捻出するか、
借金に借金を重ねて金利の支払いをするしか手はないのである。

それこそ一歩間違えれば、
金ぐりがつかなくなる危険をおかすことであり、
現に賭けが裏目に出て倒産の憂き目を見た業者の数は
枚挙にいとまがないのである。

したがって比較的安全な不動産投資にお金を投ずる場合でも、
正確な判断と賭けに勝つための勇気が必要なことに変わりはない。
そのためには、この土地にこれだけのお金を投じても大丈夫か、
という判断も必要だし、
一体、不動産に投資をする場合、
どのていどまでの借金なら安心なのか、
という境界線の設定も必要であろう。

一番わかりやすい設定は、
一般の人たちがマンションやマイホームを手に入れるとき、
どのていどの借金までが許されるか、ということであろう。
今でこそマンションやマイホームを手に入れるに際して、
住宅ローンを利用することができるようになったが、
まだ金融機関にそうした資金的余裕もなく、
個人への金融が制度化されていなかった頃は
頭金のほうが三分の二で、
融資がたったの三分の一ということもあった。

やがて、半々になり、
さらに頭金が三分のーという逆転になり、
遂には頭金が一割とか、
頭金はまったくなしでもよろしいということにも相成った。

もっとも頭金なしはよくよくのことで、
頭金分は売主が負担するとか、
万一、債務の履行が行われなかった場合は
売主が保証するという条件になっていたりする。

逆にアメリカでは、頭金のことをダウン・ペイメントといい、
原則として頭金は一割だけ、
残りの90%は三十年分割払いの長期返済というのが多かったが、
アメリカの金利が10%とか、
一五%まで上昇すると、返済不能におちいった場合、
担保物件だけでは元金に足りないおそれが生じてきたので、
ダウン・ペイメントを30%要求する銀行が多くなった。

銀行側としては10%だろうと、
30%だろうとちゃんと返済してもらえばいいのだが、
返済する側からいうと、
毎月の元利合計が払えるかどうかが問題になる。

自分で住む場合は、
毎月の元利の支払いから借りて住む場合の家賃を
差し引いた金額だけ支払いがふえた勘定になるから、
その分の支払いができるかどうかを考慮すればよい。





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2013年9月28日(土)

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