死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第66回
会社の防波堤は土地に限る

たとえば、私は新しい事業を起こすたびに1つずつ
新しい会社をつくってきた。
資本金三百万円とか五百万円の小さな会社でも、
少し業績があがりはじめると、
なるべく不動産を買わせるように努めた。

私の著作権を管理するためにつくった会社は
資本金わずか二百万円でスタートし、
現在も資木金は同じだが、
少し収入があがるようになったときに、
六百万円借りて赤坂に二三・五坪のマンションを購入した。

約二十年間も家賃をもらってきたが、
最近、近所の不動産屋が居抜きのままでよいから
坪七百万円で売ってくれないかと言ってきた。

また表参道に敷地三十坪ばかりの
古い家の建った売り物があったので、
それを買って家をこわして建てなおして
ずっと賃貸用に貸している。

つい最近、すぐ近所が坪一億円で取引されたそうだから、
かなり値上がりしたことになる。

また一頃、美術雑誌の出版をやったことがあるが、
一時期、絵画のブームで雑誌の経営としては
珍しく黒字になったことがあった。
ちょうどその頃、渋谷駅から百メートルくらいのところに
新しいマンションが建ち、
坪当たり六十万円で売りに出ていたので、
マンションの二階分約四十坪を二千四百万円で買った。

その後、美術ブームが去り、
雑誌も赤字に転落したので、廃刊にしてしまったが、
家賃収入があるので、会社だけは何とか残った。
最近、同じビルの三階の同じスペースが
五億円で売りに出されたから、
おそらく同じ値段か、それ以上には売れるに違いない。

こうした体験をしているので
「本業を忘れて財テクに励むのもどうかと思う」と言われても、
もし私が自分の一軒一軒の会社に、
お金の余裕のあるときに不動産を買わせていなかったら、
はたしてどうなっていただろうか。

おそらく資本金二百万円の会社は二百万円のまま、
五百万円の会社は五百万円のまま、
今日、何程の用もなさないでいることだろう。

そのときどきに、やや背伸びした感じはあっても
借金をして不動産を買っておいたことが、
十年、十五年たって見ると、
ほとんどの借財は返済してしまい、
残った不動産が何億円、何十億円という
含み資産になっているのである。

これらの不動産を担保に入れれば、
億単位の借金もできるし、
それを使って
かなりのスケールの新規事業を展開することもできる。

万一新しい事業に失敗したとしても、
見返りになる資産は残っているから、
それで借金の清算をして他人に迷惑をかけないですむ。

とすれば、会社にとって最も安全な財テクは、
危険に対して防波堤の役割をはたす土地であることがわかる。
私はこれまでに何回となく自分の会社の整理をしたことがあるが、
その会社が不動産を持っている場合は、
不動産を売却すれば簡単に整理がついた。

不動産のない場合は、
資本金を失った上に莫大な弁償をしなければならなかった。
そうした失敗にこりたので、
不動産を買うために借金をすることはあまり恐れないが、
事業をやるための資金を借金にたよることには不安を感ずる。

だから無理をしても
自分のポケット・マネーの中からひねり出すことにしている。

自分のお金を損する分には他人に迷惑が及ばないし、
不動産に投じた資金は、たとえ他人から借りたものであっても、
目減りしてなくなってしまうことはまずないから、
これまた他人に迷惑をかけないですむ。

個人の場合も同じだろうが、会社の財テクの場合は特に、
株より土地のほうがずっと安全であると言ってよいだろう。





←前回記事へ

2013年10月3日(木)

次回記事へ→
中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

ホーム
最新記事へ