死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第74回
セカンド・ハウスを本宅にする

次に別荘を持つと、
一年に夏のシーズンだけ使ったのではもったいない、
そう思って、秋にも冬にも時間をつくって出かけてきます。
留守にしていた間、閉めてあった雨戸をあけて
風と光を入れて見ると、
屋根から雨もりをしたあとが残っている。水道の栓をあけると、
便所の水道管が破裂している。

風呂に水を入れて、いざ、ガスに火をつけようとすると、
風呂釜がこわれて使用できなくなっている。
あわてて屋根屋や大工や左官や水道屋を呼んで
「どうしてこんなことになるんでしょうね」ときくと、
「このへんは冬の間、水が凍って膨脹しますから、
水道管の水をきれいに抜いてからお帰りにならないと、
どうしてもこういうことになってしまいますよ」
と涼しい顔をしている。

それなら別荘をひき渡すときに
あらかじめ注意しておいてくれればよさそうなものだと思うが、
うっかりそんな余計なことを言うと、
修理の仕事がなくなってしまうと、
向こうは知らん顔をしている。
だから別荘についた途端、
三カ月間来なかった間のふき掃除を女房と二人でやり、
次に屋根屋や水道屋に勘定を払い、
それが終わったらまた雨戸を締めて帰途につく。

そういうよけいな苦労をくりかえしているうちに、
珍しかった風景も見なれたものになってしまい、
小諸あたりまでスーパーに買物に行ったのも
当たり前のことになってしまって、
もう何一つ面白そうなことはなくなってしまう。

こんなことなら、別荘を建てないで、
そのお金で賃貸用不動産でも買い、
その上がりで毎年どこか好きなところへ
旅行に出かけたほうがいいにきまっているー
と私はつい本当のことを喋った。

それから、一週間くらいすると、
別荘分譲を本業にしている不動産屋さんが私のところへ
講演を依頼にきた。
「楽しい別荘のつどい」で私の話をきいて
これは面白いと思ったので、是非うちの社員にきかせたい、
とおっしゃる。

「私が喋ったのは別荘は駄目だと言う話ですよ」と言うと、
「わかっています。
世の中には時々、先生のような頑固な人がいる。
そういう人をどうロ説いたらよいか、研究をするために、
先生にお願いにきたのです」
「それならかまわないと思って私は喜んで出かけたが、
三百人ほどいたその会社の社員が
はたしてどんな作戦を身につけたかはきかなかった。

ただ私があまり賛成しなかった
別荘地の開発を強引にすすめたために、
その会社は間もなく人手に渡り、
社長が退陣したことを新聞で知った。

成長経済下の日木では別荘を買わされた人も、
別荘分譲に従事した人も、
あまり愉快な目にあっていないことだけは事実である。

しかし、時代は完全に変わってしまった。
まず東京の土地が高くなりすぎて
都内で自分の家を持つことができなくなっている。
次に、生産にばかり精を出しても、
社会が必要とする以上の品物は不要なのだから、
働きづくめに働くより、
あるていどセーブすることが必要になってきている。

第三に、お金を貯めることより
お金を使うことが社会的な意味を持つようになっている。
そういった意味ではリゾートとかホリデイとか言った概念が
人々の生活の中で正当な位置を占めるようになった。

働く時間より楽しむ時間とか、何もしない時間とかが、
スケジュール表の中で
次第に大きなスペースを占めるようになっている。

セカンド・ハウスに対する人々の受け取り方も
昔とはまるで違ってきたといってよいだろう。
というよりも、ファースト・ハウスの持てない人が
郊外に家を建てるとすれば、
はたしてそれをセカンド・ハウスと呼ぶべきかどうか。

むしろ本宅は東京から高速道路で
一時間半以内のところにかまえて、
月曜から木曜までは東京のワンルーム・マンションに住む。

そのワンルーム・マンションをリースで借りるか、
それとも自分で買うかが問題になるていどのことであろう。

いい区域に位置し、
いい生活環境を具備したクワハウスに対する需要は
今後、一段とふえるに違いない。

そういった新しい住宅開発が
東京でマンション建設や宅地造成の減少に悩まされている
不動産会社の次の新しい成長事業になることはほとんど間違いない。





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2013年10月11日(金)

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