死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

不動産から学ぶ経済の成り立ち

第76回
投資対象国は数少ない

一口に海外進出といっても、
生産業と不動産業では 、選択の基準が違う。
メーカー業なら、
その土地で売れそうなマーケットがありさえすれば、
政情のことなどさして意に介さなくとも
工場を建てる気になるであろう。

また低コストで生産ができて、
輸出をして充分、採算にのるようであれば、
これも企業進出の有利な動機になろう。
ところが、不動産はその土地の人々を相手の事業だし、
いったん投資をすると、
土地やビルを担いで引き揚げるわけにも行かないし、
また国によって外国人や
外国企業の進出を制限しているところもある。
不動産は国が豊かにならなければ、
値上がりのしないものだし、政情が安定していなければ、
人気のつかないものである。

また不動産の賃貸借に際して、
借り手に極端に有利な法律が幅をきかせていても、
人々は不動産投資に跡踏をするものである。

したがって、お金さえ持っておれば、
世界中どこにでも進出できそうに思うが、
実際に可能な地域はごく狭い範囲に限られてくる。
たとえばイギリスから不動産を買いませんか、
と勧誘の手紙が舞い込んでくる。

イギリスでは何年以前に
賃貸借した家の賃上げは一切認めないといった法律があって、
賃借人は家賃の引き上げにも応じなければ、出ても行かない。
それを恐れて家が空いていても貸そうとしない人が多い。

またホテルの売り物もけっこうたくさんある。
それも安ホテルでなくて、
世界に名を知られた超一流のホテルである。

一時期、石油でしこたまお金のころがり込んだ
アラブ人の富豪たちがそういうホテルを買い込んだ。
しかし、実際に経営してみると、効率は悪いし、
労働組合との交渉に難儀をする。

そこで次の買手を探すことになるが、
アラブ人も見離すくらいだから、
日本航空のように自分のお客を持っている組織でなければ、
食指を動かす投資家は、まずいない。

またたとえばシンガポールのように一時期、
建設ブームに湧いていた国には、
香港資本がドッと流れ込んだことがある。

日木からも合弁その他の形で環境会社や
ホテル業者が乗りこんで行った。
しかし、外国人の開発を制限する法律もあれば、
外国人が二階建ての家を買うことを禁ずる法律もある。

ホテルの経営は自由に任されているが、
そこヘドッと資本が集中したのでホテルが過剰になり、
五割引、六割引といった宿賃のダンピングが何年も続いている。
ブームが去ると、シンガポールの地価も下がり、
不動産業者の中には倒産して海外に逐電する人も現れた。





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2013年10月13日(日)

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