至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第20回
『うりずん』のドゥル天

戻ってきました、沖縄本島・那覇市の『うりずん』に。
ここは「古酒(くーす)番人」といわれる
土屋實幸さんの店。
古酒とは、泡盛を3年以上寝かせたものです。

「沖縄県内、全蔵元の泡盛が置いてある」とか、
1997年から毎年泡盛を寝かせて百年後に飲もうという
「泡盛百年古酒元年」計画で有名な居酒屋ですが、
私にとっては(泡盛はもちろんとして)沖縄の
人と、三線(サンシン)と、ドゥル天の店。
初めてここを訪れたときの、あの
居心地の良さがずっと忘れられないのです。

古い家屋。土間にカウンターといくつかのテーブル。
カウンターの向こうには
色彩豊かなラベルの泡盛が壮観に並び
いちばん奥にはオリジナル泡盛の大きな瓶(かめ)。
カウンターの隅っこで、まさに番人のように鎮座し
なぜか客と一緒に飲んで喋ってほろ酔いでいるのが
店主の土屋さんでした。

カウンターに座った私と連れが泡盛を飲んでいると、
お隣の常連客が、石垣島の「於茂登(おもと)」という
銘柄を教えてくださる。
飲んでみる。まろやかで清冽、うまい。
そうだろう、そうだろうと頷いたその人は、ほどなくして
ここへ来たらつまみはドゥル天です、と指南してくださる。
食べてみる。
カラリと揚げられた、薩摩揚げのようなルックスのそれは
口のなかでほのかに甘く、里芋に似た……でも
もっと違うねっとりとした、何とも言えない舌触り。
聞けば田芋という芋の茎を使っているそうで、
もともとは『うりずん』のまかない料理だったのだとか。

熱々のドゥル天を、泡盛で流し込んでいると
今度はもう片側の隣客が何気なく
壁に掛かっていた三線を手に取り、つま弾き出しました。
と思ったら、あっと言う間に隣客、その隣客と
いつの間にかカウンターの客が皆、思い思いに歌い始めたのです。
それは合唱とも違う、もっとこう、呟くような歌声。
沖縄独特の明るくて少し悲しい音階が、
古い木造の柱や、天井や、板壁に
沁みるように吸い込まれていく。
歌えない私は泡盛を飲み、
言葉のわからない呟きに身を委ねる。

……しばらくして三線の弾き手が帰ってしまい
店にはもとのざわめきが戻りました。
が、驚いたのはこの3分後。
新しくやって来た、さっきとは別人の常連客が
当然のように三線を壁から外し、同じ席で弾き始めたのです。
そして客たちも当然のように、再び歌う。
いったい何が起こったのか。
そこは演奏者の席なのか。なぜみんながみんな歌えるのか。

一瞬、きょとんとなった私でしたが、
しかし泡盛のおかわりを頼む頃にはもう
どうでもいいさぁ、とすっかりオキナワン・モードに。
そしていつかまたこの場所に戻って来ようと
決めていました。

沖縄行きの便を予約したのは
それからたった1年後のことです。


■うりずん
沖縄県那覇市安里388-5 TEL 098-885-2178


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