至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第21回
東京のバーで、海と土と雪の匂い

渋谷区の、とあるマンションの半地下。
暗闇に鮮やかなオレンジが浮かぶ場所、それが
バー『RECOVER』の目印です。

店主の梅村さんは、銀座の老舗バーで修業した人で
カクテルもおいしいし
ワインもフランスの小さな畑のものをあえて選ぶなど
自分の筋を通してる、というセレクト。
お酒だけでなく
正しくは、BAR & GRILL FOODSというだけあって
フランス産鶉のグリルなどをはじめとした食事も
なかなかの充実度です。

けれど私の目を引いたのは、
メニューに並ぶ懐かしい食材。
ハタハタ、きりたんぽ、比内地鶏、いぶりがっこ……
秋田の、海や土や雪の匂いのする名前たちでした。

最初にここへ来たとき
秋田のかたですか? と梅村さんに尋ねると
彼女は静かに、「ハイ」と答えました。
次に訪れたとき、私も秋田です、というと
あまり興味なさそうに
「そうですか」とだけ言いました。

それから、何度目に訪れたときでしょうか。
秋田の、大館市出身であること
実家から食材を送ってもらっていることなどを
訊かせてくれました。
大館市は、きりたんぽの本場で
周辺には比内地鶏で有名な比内町がある、
私の実家がある秋田市からかなり北上した、県北の地域。
雪深いんだろうか。
そんなことを想像している私に
梅村さんはぽつりとこう言ったのです。
「故郷に恩返ししたいんです」

自分が育った場所、育ててくれた人や自然や
そういう有形無形のものたちに恩返しがしたい。
どうやって、どんな方法で? と考えたとき
自分にできることは
子どもの頃から食べていた土地の食材を使い
親たちがずっと受け継いできた地元の料理を作り
何百キロか離れた
今自分が生活しているこの場所で、
いろんな人に食べてもらうことだと
気づいたのだそうです。

故郷に与えてもらった恩を、返す。
ということは
自分がそこから何を与えてもらったのか
何に感謝しているのか
彼女は、はっきりと意識しているのでしょう。

そして、クールな東京のバーで
それを真正面からやっている。
郷土料理屋ではなく
フランスの鶉やドライマティーニと一緒に、
自分のやり方でサラリとやっている。
ほろ酔いの帰り道、私のやり方は何だろうと
ずっと考えていました。

『RECOVER』からは
年に何度が案内のハガキが届くのですが
年末に届いた一枚には、こう書かれています。

秋田産、子持ち大ハタハタのグリル
(今年も豊漁、デカイっす!)

愛情が、伝わるでしょ?


■RECOVER TEL 03-3466-7178


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