至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第37回
変わらない『秩父錦』の風景

何年かぶりに、『秩父錦』の暖簾をくぐりました。
銀座から昭和通を渡って
何度行っても迷子になるその場所は、東銀座。
古い木造家屋、店内にも瓦の軒があるという不思議な造り。
店の真ん中には
年季が入って黒光りした木のカウンターが
ちょっと変わったコの字で
デーンと構えています。

このカウンターがまた、反り返って
皿やグラスが滑り落ちそうなくらい斜めになっていたり。
そんなことはお構いなしに
ナントカ談義を繰り広げるお父さん達がいたり。
私にとってここは、
そういった居酒屋の風情を楽しめる場所。
何年経っても
変わらない良さを感じられるお店です。

もう10年くらい前、偶然ここの前を通りかかって
木造の風格と、暖簾の向こうのめくるめく世界に圧倒されて
入らずにはいられませんでした。
仕事仲間の女性3人で
夏の夕方、6時過ぎくらいだったと思います。
外はまだ明るいのに
『秩父錦』の店内はほろ酔いのお父さん達でいっぱい。
しかも日本酒、飲んでるし。
うれしくなった私たちは
よーし飲むぞー! と意気込んで
しかし少し遠慮がちにテーブルに座りました。

壁いっぱいに貼られた短冊から
何を食べようかと迷っていると、店員が
自家製さつま揚げと紙カツが名物だと教えてくださる。
道理でさっきから、揚げたてのさつま揚げと
やけに大きくて平べったいカツが
次から次へと運ばれているわけだ。
私の連れは、昔懐かしいハムカツならぬ
紙カツに大喜びして
少し甘めのソースをたっぷりとかけて
かぶりついていました。

そして2004年。
今夜も私の目の前には、この2点セットがあります。
熱々のさつま揚げを箸でちぎって
はふはふしながら、笑って、食べて、飲んで。
ふと見れば
向こうのカウンターでも、こっちのテーブルでも
みんな同じことをしています。
名物を食べ、黒板のオススメを食べ、
日本酒の秩父錦を飲み、喋ること喋ること。
この風景が
いったい何年十前から続いているのか想像すると
変わらない人間の営みに
ほっとした気持ちになります。

変わったのは
『秩父錦』の隣にビルが建設中であることと、
「あんたたち、飲み過ぎだよ」と店の人に
笑われるくらい長っ尻で飲んでいた私たちが
帰りの電車を考えて
サッと切り上げることができるようになってしまったこと
くらいでしょうか。


■秩父錦
東京都中央区銀座2-13-14 TEL 03-3541-4777


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2004年2月10日(火)

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