至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第61回
イタリアワイン「カレーマ」を飲む

最初に訪れたときのこと。
「今日は何杯くらい飲まれますか?」
と訊かれ、少々面食らいました。
だって飲む前から、何杯飲もうかなんて
考えたことなどないですから。

ここはイタリアワイン専門のバー『AZ(アズ)』。
グラスワインがものすごい品揃えで、有名無名を問わず
店主である平野博文さんの
お眼鏡にかなったワインが、1杯からいただけます。
メニューはなく
好みを言えば、平野さんがチョイスしてくれるシステム。
だから、前出の台詞なのです。
「○杯くらいなら、このワインからでどうでしょう」
とワインの流れを組み立てる必要があるのです。

逆に言えば、客は
最初に、だいたいでも「○杯」と目標を立てさえすれば
あとは彼のコンダクトに委ねるだけで
未知のおいしさを発見できます。
ちなみに、途中で目標変更は可能です。

しかし私は先日、最初から
ある目的をもってドアを開けました。
料理をしっかり食べることと、
「CAREMA」を飲むことです。
これはピエモンテ州の北、カレマ地区のワインで
葡萄はネッビオーロ。

ネッビオーロ生産者共同醸造組合が造っているそうで
地元以外ではあまり見たことがありません。
私は以前、イタリアで飲んだのですが
どんな味だったか忘れておきながら
中途半端に「超おいしかった」記憶だけは残っていて
その味をもう一度確かめたかったのです。

グラスに注がれたそれは、'98年のヴィンテージ。
開けて3日めのものと、開けたてと、飲み比べてみました。
前者は個性的でスパイシーな
カレマの持ち味を含みつつ、こなれた感じ。
後者は香りがどんどん膨らみ、より華やかで鮮明な印象。
やはり、いいワインです。

ふと見ると
カウンターの向こうでテイスティングしている
平野さんの顔が笑っていました。

彼のイタリアへの愛情は、たった数回会っただけの私には
とても測り知れません。
というかきっと底なしです。
イタリアへは数え切れないくらい旅したそうですが
毎回、ガイドブックではなく道路地図を手に
鼻を利かせて、偶然を楽しみながら
北へ南へ、おもしろそうな道へと駆けめぐるのだとか。
海沿いの景色を見て、そこに吹く風を感じて、
ある時は川辺であひると一緒に
お手製のランチもしたそうです……?

世の中にはイタリア通がたくさんいて
ときには、乗り遅れると居心地が悪くなる店もあるけれど
平野さんの場合は、
その愛しっぷりを見ているだけで
こちらの温度も2、3度上がってしまうような
そういう惚れ込み方です。
店を出る頃には、おそらく誰もが
すっかりイタリアに行きたくなっている
自分に気づくはずです。


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2004年3月15日(月)

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