至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第66回
ご近所の名店になる難しさ

この店が近所にあったらいいのになぁ
と思う店がよその街にあれば、
本当にその場所へ引っ越したくなって
帰り道、不動産屋の窓に貼られた間取り図を
しげしげと眺めることも珍しくない私です。
しかし、近所に住んでいたら絶対に足繁く通うのか
と言われれば
実はちょっとひるんでしまいます。

私の近所には、2〜3週間に1回ペースで通う居酒屋や
下手をすると3日に1回
〆のビールを飲んで帰るバーはあります。
でも、そんな手頃な料金の店であっても
このペースがせいぜいで
レストランともなると、いくら気に入っても
がんばったって1〜2ヶ月に一度、
お値段次第では半年、一年に一度の場合も。
好きなのに最近行ってないお店はたくさんあります。

いろんなお店に行きたいし、行きつけは欲しいという
我ながら無責任な心理だと思いますが
でも、やっぱり好きな店に出合うと
「近所にあったら」と思わずにはいられません。

長年、都心の一等地でフランス料理店の
シェフを務めてきた方が、
自分の店を出すための物件を探している
という話を、人づてに訊きました。
オーナーシェフとしてやっていくとなれば
都心の人気エリアの物件には手が出ないけれど
せめて山手線内か、
ターミナル駅に近い場所を考えているのだそうです。

なぜ沿線では駄目なんだろう? 
そう知人に素朴な疑問をぶつけてみると
「お客がいないから」という答が返ってきました。
単純に家賃だけを考えれば沿線の
しかも急行が止まらない街や
駅から歩いて5分以上かかる場所が安いに決まっているけれど
客がいないのでは話にならないと。

しかし私が訊きたかったのは
本当に客はいないのだろうか? ということでした。
住宅街では、常連客に頼らざるを得ない側面と、
店のタイプによっては先述のように
住民が頻繁に来てくれることは当てにできないので
遠方からわざわざ足を運んでくれる客も
取り込まなければいけないという側面があります。

東京の、近いような、遠いような住宅街は
畑や山や海がすぐそばにあるような地方とは違います。
地域性、客層、価格設定、形態、営業時間、
さらにそれらを踏まえて
料理人自身が、自分のやりたい料理を提供できるよう
バランスを取らなければ
都心の客からは「不便な場所」と言われ
地元の客は「近くても高い」とか、
かといって値段を下げ、クオリティも下がれば
「だったら都心に行く」と言われることになる。
近所の人に愛され、やっていける店を育てるのは
このご時世、
限りなく奇跡に近いかもしれません。

それでも住宅街に店を構える料理人たちがいます。
その中には、
ここの住民になろうという人もいれば
ここからスタートしようという人もいます。
育った場所だからという理由も
たまたま物件があったからという偶然もあります。
なにはともあれ
住宅街で産声を上げた、元気な店がたしかにあります。
浮気な客ではありますが
なぜか、最近そんな店に惹かれています。


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2004年3月22日(月)

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