至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第85回
意志あるところに道は開ける

『クーリ・ルージュ』は
急行が止まらない駅から徒歩約15分の所にあります。
なぜこの場所に? と
栃木県出身のオーナーシェフ、石川資弘さんに訊ねると
「都心は高いし、競争が激しいというのもあるけど
(店が)みんな同じような顔をしている気がして」
と、最初から沿線の物件を探したのだとか。

かくして、銀行にお金を借りて
アンティークの街・西荻窪で
素敵なイギリスのアンティーク家具を設え
真っ白なリネンにモダンなお皿を揃えて
船を漕ぎ出しました。

彼は「近所のうまいもの屋」をやりたいのだそうです。

石川シェフは、昭和47年生まれの31歳。
フランス料理を目指したのは
トム・クルーズの映画「カクテル」を観て
バーテンダーをしていた彼が
「これからは料理ができないと」と思ったとき
たまたま、進学した調理師専門学校のキャッチコピーが
「フランス料理の東大」だったからだとか。

学校を卒業して、代官山『マダム・トキ』や
青山『ラ・ブランシュ』ほかで5年間修業し、25歳で渡仏。
フランスでは1つ星の『ピエール・オルシー』(リヨン)、
3つ星の『ラ・コート・ドール』(ソーリュー)、
当時1つ星だった『シャトー・デ・レイナ』(ペリグー)
などでトータル3年半修業し
最後の店では2番手(スーシェフ)を務め、帰国しました。

フランスはイタリアよりさらに
ヴィザの取得が厳しいといわれています。
彼もまた、何度か帰国して手続きに奔走したそうですが
最後に渡仏するときは、どうしてもコックとしては取れず
仕方なく、語学研修で申請し直したところ
「お前はコックだろう」
と、あっさり却下されてしまいました。

ここで、あきらめる人は
「手を尽くしたけど駄目だった」と呟くことになる。
しかし彼が担当者に放った言葉は、こうです。
「コックは語学研修しちゃいけないのか。
留学制度は何のためにあるんだ!」
身も蓋もない意見ですけど、彼にしてみれば大真面目で
担当者がどんなに怒ろうが、窓口で粘り続けること2時間。
閉館時間になり、ついに大使が登場してやっと
ワーキング・ホリデーという道が与えられた。
「シェフは向こうで待っててくれてるし、
どうしても、あきらめるわけにはいかないですから。
僕は絶対負けないって、必死ですよね。
フランスでは何でもそうやって渡り合ってやってきたから、
それくらいはがんばれます」

オープンして約8ヶ月。
スタッフに給料を払えるようになったのは
正直言ってここ1〜2ヶ月のことだとか。
始まったばかりだから
これから整えていかなければならない課題もあるでしょう。
けれど、今
ドアを開けたお客さんの顔を厨房から見て声を掛け、
食事を終えたお客さんのテーブルに
必ずやって来ては丁寧に挨拶をしている彼を見て
私はこう思うのです。
意志あるところに、道は開ける。


■coulis rouge(クーリ・ルージュ)
東京都杉並区西荻北4-26-10 TEL 03-3395-8289


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2004年4月16日(金)

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