至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第90回
モボも通った銀座のビヤホール

建築家フランク・ロイド・ライトの影響を受けている
といわれるのが、
1934年(昭和7年)に菅原栄蔵が設計した
『銀座ライオン7丁目店』。
今年で70周年を迎えた、
現存する日本で最も古いビヤホールだそうです。

ある休日、歩行者天国を散歩していたときのこと
ポカポカ陽気に思わず、泡が恋しくなって
何年かぶりに
最古のビヤホールへと吸い込まれてしまいました。

人のことは言えませんが
まだ、おてんとう様がてっぺん近くで
燦々と照っているというのに
280席もの広いスペースに、びっしりと埋まった
ジョッキグイグイの人、人、人……。
ビヤホール独特の明るいざわめきが
高い天井にこだまします。

奥の壁には、ガラスモザイクで描かれた大壁画。
その美しく微妙な色合いや、
高い天井から吊られた球型のパイプペンダント(照明)、
重厚な柱や梁など、もう二度と創り出せない味わいです。
生ビールを頼めば
白髪に蝶ネクタイ姿の、渋いビール注ぎ職人たちが
きっちりとおいしい泡を立ててくださる。

ここは花の銀座。
戦前は、ショート・カットのモガや
ちょびヒゲのモボが、
戦後はアメリカの進駐軍までもが
ジョッキを空けた、当時最先端のビヤホール。
この場所で、いったい
どんな会話や時間が重ねられてきたのか……。

地方出身の私にとって
「東京」を感じる場所がいくつかありますけど
たまらなく憧れの気持ちをもってしまうのは
案外、六本木ヒルズでも丸ビルでもなく
こういった古い場所だったりします。
今は無き銀座の『ピルゼン』(1951年創業のビヤホール)や
新宿の『名曲喫茶 スカラ座』(1955年創業、2002年閉店)も
その存在感に圧倒された場所でした。

それは、たとえば
京都や奈良の建造物や街並みに抱くような
悠久とか、荘厳という言葉で表される気持ちとは
ちょっと種類が違って、
もう少し近くにある感覚。
古き佳き
という言葉に収まりきらない
いきいきとした東京の、華やかな匂いを感じるのです。

以前、ある和紙職人に
古くなって、汚くなっていくものと
古くなって、美しくなっていくものとがあると
教わりました。

今、東京は開発ラッシュで
街が整備され、大きなビルが次々と建っています。
その一方で
開発のためや老朽化、安全面の問題などもあり
取り壊される建造物が多い中
古く美しいビヤホールの、
あの昼間の賑わいは
ひとつの奇跡であり、希望だと思うのですが。


■銀座ライオン 7丁目店
東京都中央区銀座7-9-20 銀座ライオンビル1階
TEL 03-3571-2590


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2004年4月23日(金)

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