至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第110回
ヨルダンから来たオリーブオイル

まだイラクの日本人人質事件が起きる前のことです。
イスラム文化圏に興味をもつ女友達が
シリア・ヨルダン・レバノンを旅してきました。
その頃は、
外務省からの退避勧告がなく
旅行会社のツアーも出ていたとはいえ、
戦争やテロがすぐ隣にある中東ではないですか。
心配性な私の言葉を
しかし彼女は綺麗な笑顔でかわし、旅立ったのです。

10日後、帰国した彼女の手には
おみやげだという
ヨルダンのEXヴァージン・オリーブオイルがありました。

ヨルダン、ヨルダン、ヨルダン……?
私の記憶にあるその国は
ニュースでよく見る特派員中継の場所だとか
「だいたい、あの辺」というアバウトな位置だけで
一体どういうところなのか、さっぱりわかりません。
しかもオリーブオイルって。

でも国際オリーブオイル協会によれば
ヨルダンのオリーブオイル生産量は世界第9位(2003年)。
シリアなんて、スペイン、イタリア、ギリシャに続いて
第4位じゃありませんか。

いただいた瓶には、英語で
手摘み・石臼挽き・コールドプレスと書いてあります。
皿に注いでみると
すると山吹色の液体がトロリと流れ、
ペロリと舐めれば、生命力の強そうな荒々しい草の香り。
重みのある、まったりとした舌触りです。
これをどんな料理に使うのだろう?

彼女が体験してきた
アラブ料理は地元の野菜や肉がおいしく、
毎食、8〜10種類もの前菜が供されるのだそうです。
そこには
パセリとトマトと薬味を刻んで
オリーブオイルと塩で味つけしたものや、
トマトとズッキーニの炒め物があったとか。

オリーブオイル以外にも、
「ホムス」というひよこ豆のペースト、
それを塗っていただくアラブのナンともいうべき「ホブス」、
こくのある山羊乳のヨーグルト、
ラムと玉ねぎと松の実のミンチの揚げもの「グッビ」、
かますの丸揚げ、アーモンドと炊いたバターライスなど、
自称「味覚のストライクゾーンが広い」彼女の
みごとな食べっぷりを訊いているうちに
いつの間にか私は、
ホブスの焼ける香ばしい匂いやトマトの真っ赤な色と一緒に
その国で生きている人達の
生活そのものを想像しようとしていました。

戦争というのは
相手を知らな過ぎるところから始まるのではないかと
考えていた
私自身もまた、中東のことを知らな過ぎました。

彼女は、こんなメールをくれました。
「いろんな人が自分の身近なところから
関心を持ってくれるといいなぁって。
自分にできるコトってなんだろう???って
ずーっと考えてみたら
はっきり言って“何も出来ない私”にできるコトは
“無関心でいないこと”だけだなぁって思ったんですよね」

私はまず、このオリーブオイルから
始めてみようと思います。


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2004年5月21日(金)

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