至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第125回
イタリア語教室の甘い香り

『イタリアに行ってコックになる』
なんて本を書いたので、イタリア語がペラペラだと
思っている人が多いようですけど、
私はまったく話せません。
で、世を欺くのもなんなので、最近習い始めました。
先生は、ひょんなことで知り合った
イタリア人のドゥッチョさん。
毎週1回、彼の自宅でレッスンしているのですが
これがもう、美味しくて(笑)。

ドゥッチョさんが、
手作りのドルチェをごちそうしてくれるのです。
初めてのレッスンは、焼きたてのカヌレ。
外はカラメルを焦がしたようなカリカリ、
中はし〜っとりしたカスタード風味の焼き菓子です。
それに、摘みたて苺の真っ赤なシャーベット。

次が、リンゴのストゥルーデル。
ごく薄い小麦粉の生地で
リンゴやレーズン、ナッツなどアップルパイの中身のような
詰め物を包んで、パリッと焼き上げています。
もともとはオーストリアのお菓子だそうで
北イタリアでもよく作られるのだとか。

先日は、ビスコッティの生地を型に流して焼き上げたものが
クレーム・アングレーズと一緒に供されました。
そのクレームをしみ込ませると
素朴な甘みがじんわり、おいしい。
暑い日だったので、
ちょっと酸っぱいキウィのシャーベットも爽やかでした。

これらドルチェが
家庭的な和小皿に載って現れるところが
なんとも微笑ましいのですが
その味もルックスも、完成されたプロの味。
まったくもっておいしいのです。

謎はすぐに解けました。
なんと、彼はイタリアで調理師学校を卒業し、
パスティッチェリア(ケーキショップ)やリストランテで
コックとして働いていたのだそうです。

日本に無い型や発酵箱を自作しては
パネットーネ(クリスマスに作る円筒型のケーキ)や
パーネ(パン)を焼いたり、
お菓子の新作を試みたりしている彼は
しかし今、コックではありません。
仕事でなく
好きなお菓子を、好きなときに作りたいのだそうです。

たしかに仕事にしてしまうと
知らない人の食べたいものを、時間に追われて
作ることになります。
コックの宿命、というかそれがコックという仕事。

不思議ですよね。
料理やお菓子が好きだから辞める人と
同じ理由で続ける人がいる。
大事なことは
何のため、誰のためにそれをするのかということで、
それは私自身の
そして誰の仕事にも通じる問いかけです。

かくして
イタリア語、英語、日本語がペラペラで
フランス語(本人曰く、完全に頭の中に眠ったままだけど)、
日常会話程度なら中国語まで嗜んでしまう
ドゥッチョ先生のお部屋には
今日も
甘い香りがたちこめているのです。


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2004年6月11日(金)

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