至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第145回
レストランの外にこそ修業あり

2003年9月にオープンした
『ブラッスリー・オザミ』のシェフ、羽立昌史さんは
かつて原宿にあった『オー・バカナル』で
シェフを務めていた人でもあります。
料理人としてのスタートは、
三田の名店『コートドール』。
その後、単身フランスに渡りました。

ブルターニュ『ル・ブルターニュ』(2つ星)に1年半、
ブルゴーニュ『ラムロワーズ』(3つ星)で半年、
ほか、ピレネーの2つ星『レ・ピレネー』や
パリのビストロ『ラソモア』(現在閉店)。
今度はベルギーへ移って
ブリュッセル『ブリュノー』(3つ星)で2年弱、
郊外の『バルビゾン』(1つ星)で1年、
『トレフ・ア・キャトル』で3ヶ月弱など
計約6年間、フランス・ベルギーをまわり
すべてのポジション(火口やソースなどの担当)を
一通り経験したそうです。
ベルギーとは意外なようですけど
ミシュランの星付きレストランは80軒以上揃っていて、
フランス料理のレベルが高いと訊いたことがあります。

羽立シェフが修業してきた店は
ビストロから3つ星レストランまであり
地域も違えば、店のタイプもさまざまですが
多いのはやはり高級店。
しかし彼が今、日本で供しているのは
そういったエレガントな店で作り続けてきた
繊細で華やかなフランス料理ではなく
鍋ごとテーブルに現れるブイヤベースのような
ドーンとした土着の料理です。
なぜか。
大きな体の羽立シェフは、小さな声で遠慮がちに
こう教えてくれました。
「飾るのが好きじゃないんです。
綺麗に飾りつけする料理でなく、余計なものを足さず、
その土地、その土地で覚えた地方料理をやりたい」

彼は修業先の各地で、市場などに通って地元の人と交わり
その土地と関わるのが好きだったそうで、
彼が勤めた星付き高級店のメニューには載らない
地方料理も、レストランの外で
食べ歩いたり、土地の人に教えてもらったりしたのだとか。
私がイタリアで修業するコック達を取材した時にも
感じたことですが
彼らは、レストランに料理修業しに行くわけですけど
肝心なことは、けっこう
レストランの外にあったりするようです。

日本では、
「部屋と店との往復で周りの景色も目に入らなかった」
と疲れ果てていたコックも、海外では
寝る時間を削ってもワイナリーへ行き、
チーズを作ったり、豚の屠殺を手伝ったりと
未知の生活や文化にどんどん飛び込んで……というか
潜り込んでいました。
ただ、「見た」のか「経験した」のか
「知った」のか「理解した」のか
どのくらいの深さまで潜るかは当然人によりますが
いずれにしろ、そういった土地の営みは
彼らに
彼ら自身も気づかないうちにもたらしてくれるものが
少なからずあって、そしてまた
海外で修業する意味はそういうところにある気がします。

羽立シェフは帰国後
かつて原宿にあった『オー・バカナル』のシェフ時代から
2003年9月にオープンしたこの店でも
ずっと変わらずもち続けているのは
「飾らず、足さない」
という信念。6年にわたる修業の旅が、
羽立シェフにもたらしてくれた答でしょうか。


■Brasserie AUX AMIS(ブラッスリー・オザミ)
東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル1F  
TEL 03-6212-1566
URL http://www.auxamis.com/brasserie/index.shtml


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2004年7月9日(金)

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