服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第31回
世界一シークレットなポケット

たとえば新幹線に乗るとする。
座席に座ってほどなくすると、検札に来る。
「切符を拝見致します」。ところがですね、
上着は脱いでフックに吊している、鞄は棚に上げている。
切符はそう簡単には出て来ないのです。
−私は一度これで大失敗してから、
今では次の方法を実行しています。

ワイシャツの袖口、左側のダブル・カフスの間にはさんでおく。
新幹線の切符は適度な大きさがあるので、
袖口から少し出てしまう。
そのためにまず絶対に忘れませんし、
失くしたり落としたりすることもありません。
少なくとも座席から一度立上がって
上着のポケットをくまなく探す面倒からは解放されるでしょう。

だってワイシャツの胸ポケットがあるじゃないか、
という声もあるでしょう。
でも、純粋におしゃれの立場から言いますと、
ダンディのワイシャツには胸ポケットが無いことになっています。
胸ポケットの代りにA、B、C、Dといった
モノグラム(頭文字)をししゅうで小さく入れるのです。

それはともかく新幹線に乗る時には、切符をなくさないために
ダブル・カフスのワイシャツを着るべし、
ということになるのかも知れません。
またダブル・カフスの折返しは秘密のポケットである、
と考えるなら、人には知られたくないメモや
電話番号なども入れておけるでしょう。
もしその気になれば1万円札の2枚3枚
らくに入ってしまうでしょう。

しかし私がこのような話をするのも、
まったく理由がないわけでもありません。
むかし中世の騎士、それも側近の騎士の上着の袖には
大きな折返しがあります。
たとえば王の密書などを、この袖の折返しに入れて、
馬を走らせたものであります。
そのため当時はある一定以上の身分でなければ、
袖に折返しをつけることは許されませんでした。

最後にひと言。
ワイシャツを洗濯に出す際
秘密文書を取出しておくことをお忘れなく。


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