服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第207回
諭吉の美学

諭吉を知っていますか。福沢諭吉。
明治期の日本を代表する知識人です。
若い頃の諭吉は中津藩の藩士で、
今でいうなら中小企業の一サラリーマン。
ただし抜群に勉強ができた。
砲術の勉強を建前に、実は長崎で蘭学を学んだのです。

ところが諭吉の才にしっとした重役がいました。
長崎の勉強をやめさせられてしまう。
結局、諭吉は大阪へ移って、緒方塾に入門する。

それから2年後、福沢諭吉は例の重役に呼び出される。
藩の蘭学の先生をしろ、という命です。
それほどに時代が変り、蘭学が必要とされたのでしょう。
諭吉も人間ですから、ここで腹が立った。
「長崎での勉強をやめさせた人は、あなたじゃないですか。
今になって、よくそんなことが言えますね」
と言いそうになってしまった。
けれども諭吉はそうは言わなかった。

「身にあまる光栄です。
それもこれもあなたのご配慮のおかげです」
実際にはこのような言い方をしたのです。
いや、そればかりか、この重役に顔をあわせるたびに、
同じような言葉を述べた。
その結果、諭吉へのしっとも消えて、
諭吉を引立てるようになったそうです。

今の時代でもこれに似た話はたくさんあります。
私にもいくつかありました。
でも、私は諭吉のような態度がとれませんでした。
今にしてみれば損をしたなあ、と思います。

考えてみれば人とケンカをすることは
人生の目的でもなんでもないのです。
もっと大きな目的、目標が他にあるはずです。
その本当の目的にくらべれば、
人とのムダないさかいは
避けるほうが賢いのではないでしょうか。

人とケンカするのは一時的には胸がすっとするかも知れません。
でも、それで自分の目的が
遠ざかるようでは面白くないでしょう。
第一、腹を立てた自分を客観的に見て美しくはありません。
より美しく行動することは、
人生の目的からも正しいことなのです。


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2003年4月18日(金)

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