服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第215回
美しく手をポケットに

ふだん町を歩いている時など、
ポケットに手を入れることがありますか。
まあ、これは一種の癖ですから、
自分では気づいていないかも知れません。
私なども無意識のうちに
ポケットに手を入れていたりするようです。

たいていは左右の手をパンツの脇ポケットに入れてしまう。
このこと自体はあまりほめたことではありません。
できれば入れないほうが良いのです。

ポケットに手を入れるということは、
どうしても姿勢が崩れやすい。
ことに背中が丸くなることにつながるからです。
それから階段などでつまづいた時、
とっさに手で支えられなくて、
思わぬケガをしたりするかも知れません。

俗に、なくて七癖あって四十八癖などと言いますから、
これも仕方のないことでしょう。
そこで、どうせならより美しいポケットの入れ方を
考えてみようではありませんか。

たいていの人がポケットに手を入れる時、
上着の裾の横から差しのべる。
けれどもこれは必ずしも美しい姿とはならないのです。

仮に右手をポケットに入れるとして、
手を前から横へまわす。
つまりですね、上着の前裾を軽くはねるようにしつつ、
ポケットに入れるのです。
そうすると上着の前裾は折返されて、
手首と腰との間でとどまっている感じになるでしょう。

実は、このような手の入れ方は
単に美しいだけでなく、
正しいやり方だとされるのです。
正しいとは何か。

むかしの男たちはモーニング・コートをはじめとして、
裾の長い上着を着ていました。
この場合、脇から手をポケットに入れることは、ほとんど困難。
ですから、誰もが、前から横へと手を動かして
ポケットに手を入れたわけです。
少なくともこのほうがクラシックな手の入れ方であり、
そんな時代から服を着ていたことの証明にもなるのでしょう。
だからこそ、正しいやり方だとされるのです。
ポケットひとつでも、美しさを考えることが、
まさに美しさにつながるのです。


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2003年4月26日(土)

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