服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第263回
食前書を味わってみませんか

美食についての本はお好きですか。
コレが旨いアレが美味しい。
ということばかり書いた本のことですが、
肩が凝らなくていいではないですか。
それに衣食住と無縁で暮らすことはできませんからね。
私は好きで、よく読むほうです。

この間もとある古本屋で、
山本益博 著『考える舌と情熱的胃袋』(新潮社刊)
というのを見つけました。
奥付を見ると、1985年の刊行で、400円。
もちろんすぐに買いました。
10年近く前の定価が900円ですから、
これは高いとは言えないでしょう。
それに古本屋さんは消費税込みという場合が多いので、
これも有難い。
この本のなかにたとえばこんなことが書いてあります。

<<(前略)赤貝、うに、しゃこ、
 皮くじら、たこ、と食べたなかで、
 おこぜの肝と皮くじらは忘れがたい味の双璧であった。>>

これは唐津の「花菱」という店で、
刺身三昧の食事をたんのうした時の描写なのです。
もちろん私は行ったことも、食べたこともありませんが、
少し食べたような気分になってくる。
これは美食本のいい所ですね。
お金も時間も、それに胃に少しの負担をかけることなく、
食の快感のおすそ分けにあずかるわけです。

むかしの文人は好んで美食について筆をとったものです。
味を表現することは文章修行に役立つからです。
獅子文六などもずいぶんと美食本を書いています。
もし、ご興味おありなら探してみて下さい。
私の好きな美食本は神吉拓郎の『たべもの芳名録』です。

誌上紀行というのがあるように、
誌上美食というのもあると思います。
そして私のおすすめは、食前書。s
仮に夕食が7時からはじまるとして、
5時頃から食前書を読みはじめる。
自分の好きな、とっておきの、
年代物の、美食本の扉を開ける。
読む、刺激させる、よだれが出てくる・・・。
ああ、もう我慢できない、食いたい、
美味しいものが食べたい。
ここでようやく食がはじまったなら、
それは最高の美食となるでしょう。


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2003年6月13日(金)

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