服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第428回
理想のツイード・ジャケット

やわらかいツイードの上着を着たことがありますか。
まさか。今も昔もツイードは
固い生地と決っているじゃないか。
そうおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。
ツイードがイギリス国内で着られるようになったのは、
1825年頃からと言いますから、
それほど古いことではありません。
それ以前には主としてスコットランドの、
地酒ならぬ地素材であったのです。
寒い季節の労働着に最適で、
各家庭で毛織りにされていたのです。

その頃のツイードは
まるで1枚の板のようで、厚く、
しっかりとした生地だったのです。
多少の雨や雪でも平気。
その代り5年、10年と着込んでやっと
身体になじみはじめるようなところがありました。
ところがスコッチ・ウイスキーに似て、
世界中で愛用されるにつれて、より軽く、
よりやわらかいものが好まれるようになったのです。
そして今、本当のウイスキー通に言わせると、
「シングル・モルト・ウイスキーが旨い」のだそうです。

それはともかくツイードの理想は、
もともとは上質の、目を詰んだ生地であったものが
充分に着込んで、
すっかりやわらかくなった状態でしょう。
英国人にとっては、父の古着、
祖父の古着は宝物であります。
よくエルボー・パッチ(肘当て)などもありますが、
あれは本来、見栄の一種でしょう。
永く着込んだ服、
つまり本物のツイードだぞ、というわけです。

もしお父さん、お祖父さんが
古い上着を譲ってくれるようなら、
これにこしたことはありません。
あるいは古着屋を探すのもひとつの方法でしょう。
色やデザインよりも、
むしろ生地の良し悪しに注意しましょう。
指先で軽くさわってみて、
糸の奥にはっきりとした芯が感じられるものが上質です。
スパゲティで言うところの
“アルデンテ”の感覚に似ているかも知れません。

生地さえ上質であれば、
サイズ調整をはじめとして、
細かな修理をしても、
充分もとはとれると思いますよ。
新しい皮ボタンに替えてみるだけで
かなり印象が変ってくるものです。


←前回記事へ 2003年12月4日(木) 次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ