服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第632回
暑さを忘れることば遊び

“ジャパン”のもうひとつの意味を知っていますか。
japan と小文字で書きはじめた時は、
ふつう「うるし塗り」を指します。

これはほんの一例で、
日本特有のものをあらわすために、
日本語がそのまま英語化した例は
いくつかありますね。
よく知られたところでは、
“ボンサイ”bonsai。
盆栽は日本ならではの趣味であり、技術であり、
これを別の言葉で表現するのは至難の技。
もう“ボンサイ”と言うほかはない。
そしてまた“ボンサイ”は英語と限らず、
フランス語をはじめとする
ヨーロッパの言葉のなかにも広まっているほどです。
それはとりも直さず、
盆栽そのものが一部趣味人の間で
流行になっているからでもあります。
“ハイク”(俳句)もちょっと
それに似ているかも知れません。

俳句や盆栽は、今でもごくふつうに
日本語として生きていますから、
まったく問題はありません。
ところがもともと日本語であったものが外国語となり、
時代の変化のなかで消えてしまった例があれば、
ちょっと問題です。
でも、探してみるとそんな例があるのです。
外国語の大きな辞書に出ているのに、
手近な日本語の辞書には出ていない言葉。

たとえば“カブヅチ”kabuzuchi。
これを漢字で書くと、
「頭椎(かぶづち)」となります。
私がよく使う『言泉』には出ていません。
これは日本の、古代刀のことだそうです。
刀の柄(つか)の部分が
大きなかたまり状になっているところから、
「かぶづち」と呼ばれたとのこと。

もうひとつの例は、
“シブイチ”shibuichi。
もちろん「四分一」と書きます。
これは日本独特の合金で、
銅3、銀1の割合で混ぜたもの。
ここから転じて、刀の鞘(さや)の表面に
この金属に似た仕上げを施すこと。
実際にはまだら状の梨子地仕上げの装飾であるらしい。

消えた日本語が英語のなかには辛うじて残っているのは、
少し残念ような気持になります。
もっと他にそんな例はないでしょうか。―
涼しい木陰で、小川に足をつけながら考えていると、
暑さのことなど忘れてしまいます。


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