銀行に勤め始める
しかし、三十八年前のあの二・二八事件は、あまりにも鮮烈な印象を私の頭に刻み込んだので、私は台湾がこのまま大陸からきた政府に統治されていたのでは、台湾の人たちが浮かばれないのではないかと確信するようになった。
日本統治の時代にも、私は植民地の支配被支配は人道に反するものであるから、日本軍国主義が崩壊すればよいと考えていた。そういう言動をしたために、憲兵隊に留置されたり、東大を退学させられそうになったりしたことがあった。あの当時は、国民政府が日本軍に打ち勝てばよいと単純に思っていたが、日本の敗戦が現実となって国民政府が台湾を接収してみると、それが必ずしも台湾のためにならないと確信するほど一変してしまった。人間の物の考え方など頭の中で想像していることと現実に起ることに如何に大きな隔たりがあるか、イヤでも認めざるを得なくなってしまう。
二・二八事件の当時は、私はまだ社会的に駆け出しにすぎなかったので、掃蕩の嵐が吹きすさんだときも首がとばないですんだが、もし私がもう少し年を食っていて、社会的発言のできる立場にいたら、恐らく頭と首がつながっていなかったであろう。
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