もし作家にならなければ
もし私が小説家になる代わりに、アメリカ人に住宅の賃貸をする商売に手を染めていたら、恐らく私は土地ブームからまともに恩恵を蒙っていただろうし、いわゆる「華僑の大物」にもなっていただろう。「華僑の大物」と言われる人たちは、パチンコ屋あがりが多いし、土地成金で財産を築いた人が多い。この人たちもやはり政治家たちと、お金をかけ橋にしてつながっている。だから、私も恐らくは政治家たちのパトロンの一人くらいにはなっていただろう。しかし、私はもう少しプライドを持っているから、多分、政治家と結びつくだけでなく、経済界における自分の地位を築こうと心がけたに違いない。
ただし、そうは言っても、お金がたいして儲かるわけでもないのに、労働組合とのかけひきに明け暮れる生産事業は避けて通ろうとするだろうから、商工会議所で会頭とか、副会頭になれる見込みはまずあまりない。それに外国人の扱いを受けて、よそよそしい扱いをされることも免れないだろう。
その点、ライオンズ・クラブやロータリー・クラブに属しておけば、もともと国際的な組織であり、海外のクラブと姉妹提携もやっているし、また会員同士の交流も密にしている。
だから、きっと私はそうした団体に所属して、運営委員の一人くらいにはなっていたように思う。
もし、そうだとしたら、私は講演会の講師ではなくて、今頃は講師の紹介をする係にまわっているだろうし、運営委員として、今の私ほど知名度は高くないかもしれないが、今の私の百倍くらいは資産家になっていたに違いない。
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