「どうして天然ガスのほうがいいのですか?」
「石炭は固体でしょう。採るためには穴を掘って人間が地下や海底まで採りに行かなければなりません。石油は液体ですから、パイプを打ち込んでポンプで吸えば上がってきます。天然ガスに至っては気体ですから、穴さえ掘れば、自分のほうで上がってきます。コストに大きな違いがありますから、いずれ天然ガス全盛の時代になるでしょうね」
「でも気体になっているものを、どうやってサウジアラビアから日本まで運んでくるのですか」
「あなたのような科学知識のない人にいくら説明してもわからないでしょうから、たとえ話で説明しましょう。LPGとかLNGと呼ばれるガスはマイナス一〇〇度以下まで冷凍すると液化します。それを魔法瓶を大きくしたような船に乗せて東京湾まで運んでくるのです」
「運んできてどこに置くのですか?」
「方法は二つあります。一つは天然ガスを採取した穴があちこちに残っていますので、そこにもう一度押し込んで貯蔵します。もう一つは魔法瓶になった船体と牽引船を切り離して、牽引船で空になった魔法瓶を引っぱってまたガスを積みに行く方法ですね」
「そういう船はどのくらいの大きさですか?」
「そりゃ大きいほど経済性があります。まあ、十万トン以上でしょうね」
それをきいた途端に、私の頭の中のコンピュータがにわかに稼働しはじめた。今でこそ百万トンドックは少しも珍しくないが、昭和三十四、五年頃は日本で一番大きな船台が播磨造船の四万トンドックであった。もし天然ガスの時代が来たら、アラビア湾から東京湾まで一定間隔で十万トン級のLPG船が動くことになる。そうなれば、間違いなく日本に空前の造船ブームがおとずれることになる。
「それッ、播磨造船の株だ」
と株をはじめたばかりの私は証券会杜に電話をかけて、播磨造船の株を買った。播磨の株価はちょうど額面五十円だった。まだ誰も気がついていないが、そのうちに五十円が百円にも二百円にもなるに違いない。そう思って朝、目をさます度に、相場欄と睨めっこをしたが、五十円の播磨造船は、一円上がるか、一円下がるか、上下二円の動きしかなかった。
約一年もそれが続いて、私はやっと株を買うのにはタイミングがあることに気がついた。
科学者は十年後か二十年後に起るかもしれない夢を語っているのに、せっかちの私はそれが明日にも起ると早合点していたのだから、うまく噛み合わないのも無理はないのである。
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