私は自分でチラシをつくり、「奥様、洗濯代が半分になります」というコピーを刷り込み、チンドン屋をやとって住宅街の中を宣伝してまわってもらった。何か月も赤字が続いて、この先どうなるかと心配をした時期もあったが、年が明けて三月になると、卒業式の日を境にドッと洗濯物が持ち込まれて、店の中はたちまちひっくりかえるような大騒ぎになった。
私は原則として、お客にはセルフサービスを強いたが、お客をいつまでも店の中に並ばせるわけにもいかず、結局品物を預かって、順番が来たら店の者が洗濯機の中に入れてやるようなやり方に変えるよりほかなかった。
おかげで商売が繁盛して月に三十万円も五十万円も利益があがるようになったが、既存のクリーニング屋からは目の敵にされた。クリーニング屋は同業者の集まりで盛んに対策を練り、「クリーニングはクロウトにお任せください」とビラをまいたり、コインオペの業者の悪口を言って、私たちに対抗しようとした。また、こちらはやっと商売が軌道に乗りかかったばかりだというのに、機械屋は次から次へと見込み客を連れてきて、
「ほら、邱永漢サンがやっている店ですよ。先見の明のある人がはじめた仕事だからやはり、こんなに繁盛しているでしょう」
としきりに機械の売り込みに精を出す。新事業に関心を示すのはいつでもシロウトの人たちであるが、おかげであっという間に東京だけでも何千軒もの新しい店ができ、創業者利得を得る間もないうちに、たちまち猛烈な過当競争におちいってしまった。
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