毛生え薬で億万長者の夢をみる
女房の助言でピンチを乗り切る
ピンチにおちいって「死にたい、死にたい」と言っていた私に、
「そのくらいのことが何ですか。お金には人間の生命を左右するだけの値打ちはありません」
と妻は鋭い一言を投げつけたが、その一言で私が立ち直ったかというと、そんなことくらいで目の醒めるような私ではなかった。
持っていた目ぼしい株は建築費と砂利屋の穴埋めにほとんど処分してしまったし、売れ残りの株は株価の暴落で二束三文に下がっていた。ビルの契約を解除されたら契約に基づいて保証金を返さなければならないし、銀行には毎月の元利の支払いが残っている。また建築費の未払いもまだ一部残っている。
著述家としての収入は、個人の収入としては家計をみたすには十分であるけれども、商売の金ぐりをするとなると文字どおり焼け石に水だった。いつもピンチにおちいるたびに思うことだが、もし事業などに手を出さないで、小説家としての収入だけで暮らしていたら、どんなにゼイタクな生活ができたかもしれない。こんなことなら、もうこれ以上よけいなことに手を出すようなことはやめることにしよう。そう思ったことが一回や二回ではなかった。
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