しかし、喉元すぎると、たちまち熱さを忘れて、また次の新しい仕事のスキマが目の前にちらつく。きっと私はお金が儲かることよりも、未知の仕事に手を出して苦しんだり、もがいたりすることの中に恍惚を感ずる性に違いない。その恍惚感が忘れられずに、「毒を食らわば皿まで」といった体験をくり返すことになってしまうのであろう。
どちらにしても、うまくいかなくなった仕事の後片づけはしなければならなかった。立体ビルの立体構想は最初から実現に至らなかったが、二階から四階まで空室になったのをとりあえず、新しいテナントで埋める必要があった。昭和四十年の不況のさ中で、テナントを探すのは容易なことではなかった。しかし、うちの女房は、
「保証金をタダにして、三か月分の敷金をもらうだけにしたらいかがです?思いきって条件をゆるめたら、不況の中でも借りる人はいるものですよ」
なるほど家内の言うとおりにしたら、すぐ三階分とも埋まってしまった。いままで千三百五十万円もらっていた保証金をいきなりタダの九十万円にするのは、気持ちの上で思い切りが必要であるが、思い切ってやってみると、お客は現われるものである。
三階分の家賃はあわせて六十七万五千円にしかならなかったが、空室にするよりは少し値下げをしてでも満室にすればその分だけ穴は埋まる。保証金に返済する分だけまた銀行からお金を借りたので、金ぐりは一段と苦しくなったが、何とかお金がまわってゆくようになると、最悪の状態は脱することができた。
←前ページへ 次ページへ→

目次へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ